今日から春がはじまるといいのに

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猪口(いのくち)さんが体調悪いってこと、周囲には絶対に言わないから」  安心、してもいいのかもしれない。  不安に駆られる日々から、抜け出すことができるのかもしれない。  そんな希望を、染井(そめい)くんがたくさん与えてくれる。 「猪口さんとの約束、ちゃんと守るから」 「さっきの……」 「あ、初めて笑ってくれた」 「すみません、あの……えっと……」  だけど、今は嬉しすぎて涙が止まらなくなりそうだった。  言葉の紡ぎ方が分からない。  どういう言葉を返せば、染井くんが喜んでくれるんだろうとか考えてみるけど、頭は回ってくれない。 「秘密から始まる関係って、なんかいいね」 「え、あ、その……さっきの口止めは、家に連れ帰されると思ってしまったからで……」  上手く笑えているのかどうかが分からない。  自分で自分の表情を確認できないって、こういうとき不便だなって思う。  笑顔の作り方すら忘れかけていたから、笑顔が強張っていないか不安になる。 「猪口さんが秘密を手渡してくれたから、俺は強制的に猪口さんを保健室に連れていこうと思ったんだよ」  でも、今は染井くんの言葉を、染井くんが見せてくれる笑顔を信じたい。  新しいクラスに馴染むことへ不安を感じていた自分が、綺麗な笑みを浮かべられているって信じたい。
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