4人が本棚に入れています
本棚に追加
(大丈夫、大丈夫……)
自分に大丈夫と言い聞かせていくけれど、1歩ずつ歩を進めていくだけで呼吸が乱れて苦しくなる。
助けてと声を上げたくても、助けてほしいって気持ちを誰かに悟られたくない。
「猪口さん」
「はい……」
苗字を呼ばれて、振り返る。
そこにいたのは見知らぬ男の子だけど、同じ制服を着ているってことは同じ高校に通う人だってことが分かる。
「体調、悪い?」
「え……」
「後ろから見てると、ふらふら歩いてるから……」
彼は、私のことを知っている。
それなのに、私は彼の苗字すら知らない。
「保健室、行こ……」
「誰にも言わないでください!」
なんとなく自分の体が熱に侵されているのが分かるけど、その熱すらも無視して私は高校の校舎へと入りたい。
高校2年生を始めるために、ちゃんと自分の足で教室に向かいたい。
「私が具合悪いってことは……絶対に……言わないで……」
昔から、風邪を引くことが多かった。
特別な病気を患っているわけでもないのに、風邪を引きやすい私はよく学校を休んでしまう。
「お願いします……」
懇願って、こういうときに使う言葉なんだってことを初めて知る。
初対面の彼に頭を下げて、どうか私の願いを叶えてくださいという気持ちを託す。
最初のコメントを投稿しよう!