今日から春がはじまるといいのに

3/9
前へ
/9ページ
次へ
「少しだけ、休ませてあげてください」  保健室まで辿り着くと、自然と手が離れていく。  すれ違った人たちの中に、私と彼が手を繋いでいたことを気に留めた人たちが何人いたのか。  誰も私たちのことなんて気にも留めていなかったのか。  周囲の視線を確認する暇もなく、私は保健室に用意されている椅子に体を休ませてもらった。 「大丈夫? 体温計で熱……」 「大丈夫です……新学期初日で、少し緊張しちゃって……」 「そっか、少し疲れちゃったかな」  保健室の先生に体温計を手渡されそうになったけど、それを拒絶してマスクの中へと引きこもる。 「染井(そめい)くん、ありがとう」 「同じクラスなので、猪口(いのくち)さんが落ち着いたら一緒に教室行きます」  彼のことを何も知らない私は、保健室の先生の呼びかけを通して彼の苗字を知ることができた。 「猪口さん、無理しないでね」 「ありがとうございます」  年度始めということもあるのか、先生はずっと保健室に待機していられないらしい。  すぐに戻ってくると言い残して保健室を離れたけど、そんなに早く戻ってこられないだろうなってことを察した。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加