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「少しだけ、休ませてあげてください」
保健室まで辿り着くと、自然と手が離れていく。
すれ違った人たちの中に、私と彼が手を繋いでいたことを気に留めた人たちが何人いたのか。
誰も私たちのことなんて気にも留めていなかったのか。
周囲の視線を確認する暇もなく、私は保健室に用意されている椅子に体を休ませてもらった。
「大丈夫? 体温計で熱……」
「大丈夫です……新学期初日で、少し緊張しちゃって……」
「そっか、少し疲れちゃったかな」
保健室の先生に体温計を手渡されそうになったけど、それを拒絶してマスクの中へと引きこもる。
「染井くん、ありがとう」
「同じクラスなので、猪口さんが落ち着いたら一緒に教室行きます」
彼のことを何も知らない私は、保健室の先生の呼びかけを通して彼の苗字を知ることができた。
「猪口さん、無理しないでね」
「ありがとうございます」
年度始めということもあるのか、先生はずっと保健室に待機していられないらしい。
すぐに戻ってくると言い残して保健室を離れたけど、そんなに早く戻ってこられないだろうなってことを察した。
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