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「染井くんのことを知っているフリをして付き合うのは違うと思って……」
最初から隠しごとのある関係なんて、友達とは呼べない。
友達を作ったことがない私だって、それくらいのことは理解できている。
「ごめんなさい……あの、せっかく友達になってくれる人に、こんな……」
染井くんのことを怒らせるような発言しかしていないのに、彼には眩しいくらいの優しい笑顔が戻ってくる。
私は、自分を肯定されたかのような錯覚を受ける。
「染井くん……凄いです……」
「ん? 何が?」
「どうして、そんなに人を救うような笑みを向けられるんですか……」
新年度の始まりに出会った男の子は、神様が私に用意してくれたプレゼントなんじゃないかと勘違いしてしまうほど優しい。
こんなにもすんなりと私が抱えている事情を受け入れてくれる染井くんの、人の不安を打ち消してしまうような温かさが本当に嬉しい。
「……俺ね、猪口さんの頑張りに勇気づけられた1人なんだよ」
私が俯きがちだったことに、染井くんは考慮してくれたのかもしれない。
私を呼ぶ、その声。
まさに、私を救ってくれるような優しさを含んでいた。
「中学のとき、特に体調が悪いわけでもないのに保健室通ってたことがあって」
そこでようやく、染井くんが私を認識してくれたのが中学時代だったということを初めて知る。
「保健室の先生に話を聞いてほしい人たちが集まる時間が好きっていう、物好きなところが俺と猪口さんを結びつけてくれました」
まるで物語を読み聞かせているときのような穏やかな空気と声が、先生がいなくなって優しさを失った保健室を包み込んでいく。
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