今日から春がはじまるといいのに

8/9
前へ
/9ページ
次へ
染井(そめい)くんの手、掴んでもいいですか」 「どうぞ」  目の前に用意された新しい居場所に、足を踏み入れてもいいですか?  そんなことを神様に問いかけたいけれど、その問いへの答えは返ってこない。  神様が人に直接答えを教えてくれないと知っているからこそ、私は自分で自分の行く先を選ばなければいけない。 「染井くんに相応しい友達になれるように、誠心誠意努力……」 「猪口(いのくち)さん、猪口さん、堅い! 堅いからっ」 「だって、友達の作り方が分からなくて……」 「ははっ、猪口さんと一緒なら、これからの高校生活楽しくなりそう」  笑ってくれる。  笑っていてくれる。  穏やかで温かい笑顔を、僕に対して向けてくれる。  そんな人が、ただただ目の前にいてくれることを幸福に思う。 「ねえ、猪口さん、約束」  どうして染井くんは、私に対してこんなにも優しい眼差しを向けてくれるのか。  どうして、こんなにも優しい言葉を差し伸べてくれるのか。  次から次へと溢れ出す疑問があるけれど、その疑問1つ1つに答えを出す必要はないのかもしれない。 「無理をしてもいいけど、俺には声かけて」  悔しくて泣いた日があった。  悲しくて泣いた日があった。  毎日が嫌すぎて泣いた日があった。 「体調が悪いですって」  なんで私ばっかりが、って泣いた日があった。  自分の弱さに泣いた日があった。 「周囲に心配かけないように、猪口さんを助けにいくから」  自分に強さがあれば、ときどき現れる弱い自分耐えることができたかもしれない。打ち勝つことができたかもしれない。  でも、私は弱いままだったから、いっぱい泣いた。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加