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「あれ……、あたしのヌネガン食べた?」
夫婦で遅く起きた休日の朝、トーストにハムを乗せて食べたあと、妻のミホが冷蔵庫を開けながらそう言った。
「え? 何?」と、俺。
「ヌネガンよ。いつも冷蔵庫に入れてあるでしょ」
ミホが少し口をとがらせて言うナントカという言葉に、俺は戸惑った。
「ヌネガ……、ヌネ……ガン?」
「ヌネガン! 聞こえてるでしょ!」と、声を荒げる妻。
確かに聞こえていたし、聞き取れてもいた。ただ耳馴染みが無さすぎて、認識できなかっただけだ。
「何? ヌネガンって?」
「は? 何その白の切りかた。あなた食べちゃったんでしょ」
やばい。この口調は、もうすぐブチ切れするときの感じだ。何だかよくわからないが、とりあえずなだめなければ。
「ごめんごめん、もし知らずに食べたなら謝る。まだおなか減ってるの? パンじゃ足りなかった?」
「おなか減ってるとか、そういうことじゃないの。デザートは別腹だし」
「新しいデザート? でも冷蔵庫のデザートっぽいもの、俺、勝手に食べたりしないよ」
「何その知らないふり……サイテー。いつもあたしが、冷蔵庫にヌネガン欠かしたことないの知ってるでしょ」
「だからそのヌネガンって……」
「ヌネガンはヌネガンよ! ヌネガン知らないって、馬っ鹿みたい! 何でそんな変なこと言うのよ!」
詰め寄ってくるミホをなだめながら、俺はスマホを手に取った。
「ちょ……ちょっと待って、今調べるから」
「調べるって、馬っ鹿じゃないの!」
ミホは腕組みしながら、どすんとソファーに座り込んだ。俺は立ったままスマホで「ヌネガン」を検索した。
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