1

1/1
前へ
/7ページ
次へ

1

『ごめんね、1時間くらい遅れそう』  仕事が終わらずそうメッセージを打つと、すぐに既読になった。 『近くのカフェで待っています。お仕事頑張ってください』  返ってきたメッセージを見て申し訳なく思う。  我慢させているよな。もっとわがまま言ってくれてもいいのに。  今日みたいに急に待ち合わせ時間を変えてもらっても、休日出勤でデートがなくなっても『頑張ってください』と応援してくれて不満なんて言われない。『仕事と僕どっちが大事なんですか』と聞かれるのは面倒だと思っていたが、何も言われないとそれはそれで不安になる。  俺には言いたいことも言えないのではないか、と。  恋人の千早くんは10歳も下の19歳だ。俺に気なんて使わずに、言いたいことを言ってもっと甘えてほしい。恋人なんだから甘えられる権利が俺にはある。  待たせてしまう時間を少しでも減らせるよう、一心不乱にキーボードを叩いた。  1時間が早まることはなく仕事を終える。 『遅くなってごめんね。今から向かうからどこのカフェにいるか教えて』  職場の最寄駅にはいくつかカフェがある。駅方面に歩いていると、スマホが震えた。 『今、お店を出ました。いつもの待ち合わせ場所にいますね』  やっぱり俺に気を使っているよな。スマホをしまい、足を速めた。  人がごった返す駅前でも、千早くんならすぐに見つけることができる。俺が駆け寄ると、気付いた千早くんが表情を明るくして手を振ってくれた。 「待たせてごめんね」 「今来たところですよ。広明さんお仕事お疲れ様です」  1時間待たせているのに、今来たって……。ここには来たばかりかもしれないが、カフェでずっと待っていたのに。 「お腹減ったよね? 千早くんの好きなもの食べに行こう」 「いいんですか?! 僕はハンバーグが食べたいです」 「もっと贅沢言ってもいいんだよ!」  食べ放題じゃない焼肉だとか回らない寿司だとか。 「じゃあ、ハンバーグに目玉焼き乗ってるのがいいです!」  純真無垢な瞳を輝かせて言われた言葉に口元が緩んだ。贅沢が目玉焼きって可愛すぎるだろ。 「目玉焼きだけじゃなくてチーズも乗せてみようか」 「えっ? それは贅沢しすぎじゃないですか?」  目をまん丸にするから吹き出してしまった。思いっきり撫で回したい。外だから我慢するけど。 「じゃあ食べに行こうか」 「はい! 嬉しいです」  千早くんの手を握る。顔を染めてはにかむ姿に胸をギュンと鷲掴みされた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

103人が本棚に入れています
本棚に追加