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「つーかお前らどうでもいい話すんな」若槻は勝手にビールケースに座って偉そうにそう言った。「おい。って言ったんだな?」  若槻の言葉に美桜は頷いた。 「ねずみにタバコの吸い殻か。ねずみってのはもしかしたら本物の鼠のことかもしれねえなあ」若槻はまた考え込んでいた。  私は内心驚いていた。あんなに話さなかった美桜が鮫島さんのことを好きだったなんて。でも話さない鮫島さんともっと話さない美桜のことだから、誰も気がつかなかったんだろう。だからあんなに怒っていたんだと理解した。裁ち鋏だって本気で若槻に向けていたんだろう。もしかしたら若槻は本気なことを分かっていたのかもしれない。だから抵抗しなかった。それなら納得できる。  その時若槻のスマホのバイブの音が響いた。私たちはそれを無視した。そしてビールケースの埃をはらうと、そこに座った。 「これからどうする?」 「どうしようか」鮫島さんを殺した奴を見つけ出したかったが、なんの手がかりもない。できれば警察とは関わり合いたくなかった。  若槻のバイブ音は長く鳴らされては切れ、また長く鳴っては切れを繰り返していた。 「もー! うるさいんだけど!」心春は立ち上がって怒鳴った。「考えがまとまらない!」 「電話に出させろ」若槻はそう言った。 「電話に出たらここの場所のこと言うじゃん!」 「言わねえよ。どうせ手は使えねえんだから、スピーカーにすりゃいいだろ。そんで俺が場所のことを話そうになったら切りゃいいだろうが!」  そっか。私と心春は顔を見合わせて頷いた。再度バイブ音が鳴った。私は若槻のポケットに手を入れてスマホを取り出し、スピーカーを押した。 『若頭(カシラ)ッ! 大丈夫っすか!』耳が痛くなるほど大きな声が聞こえた。 「──カシラってなに?」心春は耳を抑えながら私に聞いた。 「分かんないけど盗賊とか海賊のボスじゃない、カシラって」 「海賊? ああ、そういえばマンガで見た」 「ああ、大丈夫だ。それから盗賊でも海賊でもねえからな」 『海賊?』 「いや、こっちの話だ。で、どうした?」 『鮫島さんはいつもの通り処理しておきました』 「そうか。で、何か分かったことは?」  電話の相手は黙った。たぶんあの咲田って男だと思う。 『──関係あるかどうかは分からないんですが、気になる動画がありまして』 「動画?」 『はい。〈未成年を食い物にしてる団体のところに行ってみた〉ってちょっと話題になってるヤツです。それがどうも鮫島さんとこのようなんすよね。モザイクはかかってますけど』 「団体? まあいい。それをちょっと調べろ。それから鼠と煙草の吸い殻ってのがあったら教えろ」  相手は『はあ?』と一瞬間抜けな声をあげたが、すぐに『分かりました』といつもの調子に戻った。それで電話は切れた。  電話が切れるとすぐにまた震えた。リンク先を送ってきたようだった。
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