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私達はすぐにリンク先を開いた。その動画は場所は特定できないように処理されていたが、どう考えてもあの家だった。音声と文字で説明が始まった。
「おいっ! 勝手に操作するなっての!」若槻は怒鳴っていたが無視する。
『この家では未成年の女の子を住まわせる代わりに売春を強要しています』
「強要なんてされてねえし」心春はイライラしたように呟いた。
『家庭の事情や貧困で帰れない女の子達を言葉巧みに誘います』
「この映像関係ねえし」確かに全然関係ないトー横の映像が映っていた。
『性暴力から逃げ出してきた女の子達はここでもまた性的搾取の対象となります』
そう音声が流れて画面が切り替わった。キッズ達が連れ立ってコンビニに行く姿だった。ひらひらとミニスカートが舞っていた。彼女達はコンビニに行くのにもミニスカートは欠かさなかった。
「これって盗撮じゃん!」心春はブチ切れて叫んだ。映像はあーだこーだ続いていたけれど、もううんざりした。またかわいそうだ。『このような行為を断罪する』なんて言ってたけど、結局はかわいそうって言うだけで、何をしてくれるっていうんだろう。心春は途中から立ち上がって床を踏み鳴らしていた。その気持ちは分かる。
「──この人が鮫島さんを殺したの?」
感情が抜け落ちたような声がした。美桜は終わっていた映像を戻し始めた。そして途中から再生を始めて、あるところでピタリと再生を止めた。
「ここ。車のガラスに映ってる」美桜は指さした。私達はそれをじっと眺めた。
「オバサン?」
「だね」私と心春は顔をさらに画面に顔を近づけた。
「過激なフェミ団体のババアだろうな」若槻もそう言った。というかいつの間に隣にいたんだ。「そいつらは殺しとは関係ないだろうな。それに──そのババアはねずみとタバコの吸い殻とは結びつかねえ」
「確かに証拠はないか」私は呟いた。顔を上げると美桜は唇が白くなるくらい噛み締めていた。
「若槻ってヤクザ?」行き詰まった私達はぼんやりと考えていたけど、結局何もまとまらなかった。それもあって心春はそう聞いたんだろう。
「まあ」
「どうしておっさんと知り合いなの?」心春がそう尋ねると、若槻は驚いたような顔を心春に向けた。
「鮫島さんが元ヤクザって、もしかして知らねえのか?」
「知らない。ねえ?」私は心春の言葉に頷いた。美桜は聞いてるのか聞いてないのか、それとも知っていたのか、何も反応しなかった。
「まあ、元って話だから関係ないかもしれねえな。その繋がりだ。鮫島の兄貴は俺らにカネを払ってるし、その代わり何かあった時には俺らが出張ってくる。それでカネを受け取りに月末に顔を出す」
「振込みでいいじゃん」
「履歴を残したくなかったんだわ。いろいろあってな。鮫島の兄貴を組から追い出したのは俺らの上だし」若槻は言い淀んだ。今の言い方だと若槻は鮫島さんを慕っているけど、その上はそうじゃないって聞こえた。
「古いやり方だが俺らが追い込みをかける時、わざと吸い殻を捨てていったり動物の死体を置いていったりすることがある。火をつけるぞとかテメエの大事にしてるもんを殺るぞって遠回しの脅しだな。怪しい連中とか見たことは?」
「あんた達しか見たことない」心春はすぐにそう言った。若槻は舌打ちをした。
「──脅し。脅されてたんだ。なんで」すでに美桜の手の中にはいつものように熊がいた。美桜は熊と話している。「私の大切な人。どうして?」
それは私も知りたい。私だって心春だって鮫島さんは大切な人だ。それなのに。私は唇を噛んだ。私だって許せない。
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