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 まだ夜が開けるまで時間があった。何か分かることはないかと心春と私はずっとスマホを眺めていた。しばらくすると私はなんだかそれにも飽きてぼんやりしていた。  本当に姿をあらわすのか確信はない。けど本当に近くにいて見ていたとしたら、それはそれで怖いなと考えていた。 「──ねえ、美桜はいつから鮫島さんのこと、その、好きになったの?」  心春はスマホから顔も上げずに突然口を開いた。私は驚いて心春を見た。いま聞くこと? 確かにそれは気になってはいたけど。美桜はすぐには答えなかったけど、何か言いたげだった。私達は粘り強く待った。 「──地獄から連れ出してくれた時からずっと」  心春はやっとスマホを見るのをやめて顔を上げた。 「だって運命の人だもん」  恐らく私にとっても心春にとっても運命の人だ。けど私達が鮫島さんを恋愛的に好きかと問われれば、それはちょっと違う。美桜は私達の心を見透かしたみたいに、ふっと笑った。そんな美桜は初めてだった。なんだかすごく大人びて見えた。 「キッズモデルって知ってる?」美桜は思いがけないことを尋ねた。 「子役ってこと? ドラマとかに出てる」  私がそう答えると美桜はゆるく首を振った。 「そっちじゃないほう。ミニスカートとか履いてわざとパンツが見えるように座ったりして、たくさんの男の人に写真を撮られるの。撮影会とかファンミってやつ」  心春はもうスマホを見てなかった。それを聞いて片眉を上げた。 「おじさん達にいっぱい囲まれてさ。最初は普通に始まるんだけど、そのうち『もっとパンツ見えるように脚開いて』とか言われるんだよね。中には脚の中にカメラを入れてきてパンツ激写してた」  想像しただけでキモいなって思う。そりゃ一対一なら撮影に応じないこともない。けどそれは信用できる人だけに限られる。 「それを五歳からやってたの」驚いて声が出なかった。心春も同じだったと思う。それは美桜は小さい頃から性的な対象として見られてきたってことだった。 「さすがに小学三年くらいになるとおかしいなって。それにその頃じゃもうパンツ越しに触ってくる人もいたしね。四年生になると『もう幼女じゃなくなっちゃうのか』って言われたし。来る人も減ってきた、だから撮影会もそろそろ終わるのかなって。そしてら今度は個人的に貸し出された」 「え? 待って! それってどういう……美桜は誰かに騙されてたの? その、芸能プロダクションとか」心春が早口で聞いた。 「騙されてた? ううん。撮影会で人を集めてたのって親だもん。騙されてるっていうか売られてたよね。うちはそれで生活してたから」  私も心春も絶句した。
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