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ここにいる女の子達はみんな訳アリだ。理由があって家を出た子がうろうろしていたところを鮫島さんに拾われる。うろうろっていうのは可愛い言い方かもしれない。だいたいはヤバいことに巻き込まれて死ぬか生きるかってところで拾われるからだ。そして鶴見の築五十年のこの一軒家に連れて来られる。食住付きだ。だが働かなきゃならない。私達は鮫島さんの仕事を手伝うことになる。
それはいわゆる闇風俗で、キレイに言えばパパ活ってやつだ。もちろん闇だからネットには載せられない。けど鮫島さんはどこからか客を連れて来る。心春はそういうのに詳しくてどこか元締めがあると言っていた。そこがマッチングアプリやSNSで客を拾って来る。その中で信用できそうで未成年と自由恋愛をしたい人だけにここを紹介するのだという。その元締めっぽい人達は月末になるとこの家に顔を出した。私はチラリとしか見たことがない。心春は「めっちゃチンピラ」って言ってた。チンピラって言葉もあまり使わないと思う。そんなのどこで知ったのって聞いたら「マンガ」って言って、そのwebマンガを見せてくれた。確かにいい人達ってわけじゃなさそう。
私達は自由恋愛をしに行く。だからご飯だけの時もあれば、セックスする時もある。それは基本的に自分で決めていいってことにはなっている。だけど鮫島さんからは「あくまで客だからな。なんでもかんでも嫌だばかり言ってると、次から指名は来ねえぞ」と言われている。指名は重要だ。私達の死活問題に関わる。だから私達は次も会いたいと言わせるように頑張らなきゃならない。ここは薬物と合意のない過度な暴力は禁止されている。鮫島さんは本当はSMプレイもやめさせたいらしいのだが、それが好きって客も女の子もいるからなかなか難しいみたいだ。以前それで死んじゃった女の子がいたらしくて鮫島さんは今でも心配している。
鮫島さんって名前は本当か嘘か分からない。でも表札にはそう書いてある。四十代か五十代前半だと思うけど、本当の年齢も知らない。髪はゆるめのスリックバックで、色のついた細身の眼鏡をかけている。背は高くてがっちりしてるからぱっと見ちょっと怖い。おまけにほとんど喋らない。この一軒家に一緒に住んでるはずだけど、鮫島さんの気配は仕事の時しか感じない。
私達はこの家の空いてる部屋に住んでいる。部屋は三つあって、二段ベッドが二組ずつ置いてある。だから十二人まで住めることになっているが、全部埋まったのは見たことがない。食べ物は冷蔵庫に入ってるのを勝手に食べていいが、個人の物は絶対に入れちゃいけない。以前は名前を書いて入れていたようだが、それでも揉めたから禁止になった。お風呂も好きに使っていい。洗濯は近くのコインランドリーに行く決まりだ。だいたいはこうやってリビングに集まって何か好きなことをしている。鮫島さんは仕事以外は自分の部屋から出てこない。部屋の奥にユニットバスを付けたと前に聞いた。
仕事は夕方から深夜まで。その時間になると鮫島さんは部屋から出てきて、リビングと繋がった部屋のデスクに座る。そうなると仕事開始だ。その時間のリビングは一段と化粧くさくなる。だいたいが予約だが、当日急に連絡が来ることも少なくない。連絡は鮫島さんに必ず入る。ここはカードか電子マネー決済しか取り扱わない。全て先払い。現金はトラブルのもとになるから取り扱わない。客は鮫島さんに払って、私達は鮫島さんに振り込んでもらう。そのほうが客とお金の話をしなくていいから楽だ。私達はおしゃれをして連絡を待つ。
ここの女の子達はだいたい一年くらいでいなくなる。だいたいがお金が貯まったとか彼氏が出来たとかだ。中には客と本当に恋愛関係になって一緒になる子もいる。ここは違法薬物とホス通いを始めたら強制的に出される。ヤクは分かるがホストはなんでって鮫島さんに聞いたことがある。「ホストクラブに通う前にまず普通の暮らしをしろ」だって。それはそうだなって思う。ヤクに溺れる子もほとんどいなかったけど、ホス通いで出ていく子は結構いるみたいだった。
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