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「な、なに」 「ねえ、あなたが殺したの?」スーツの男が答えられないくらい、美桜の腕はその首にきつく巻かれていた。 「知ってる? これっていうの。すごーく切れるから頸動脈とかスパッと切れるよ。ああ、頸動脈の位置なら知ってるから。ちゃんと勉強したし何度も何度も確認してる、死ぬために」  美桜はそう言って裁ち鋏で首筋をなぞった。その筋には赤い色がついた。 「──手配でき」電話を終えた咲田が振り返った。「テメエ!」そう言って動き出そうとした。私は近くにあった消化器を手に取ると、背後から思い切り頭を殴った。咲田はそのまま沈んだ。 「杏ッ!」心春は立ち上がってそう叫んだ。そして私と美桜の顔を交互に見た。そして鮫島さんのデスクの引き出しを乱暴に開けて、何かを探し始めた。そして心春はすぐにそれを手にした。 「ヤバいね。鮫島さんの車で逃げるよ! そいつは人質! 杏、そいつを縛って!」そう心春は叫んだ。私は慌ててキッチンに向かった。引き出しの中から結束バンドを取り出す。スーツの男を後ろ手にして手首を結束バンドで拘束した。美桜は裁ち鋏を男の首筋から離そうとしなかった。 「とにかく車に乗って! 詳しい話は車の中で聞こう!」  心春はそう言って玄関に向かった。私は男の腕を掴んで立ち上がらせた。男は抵抗しなかった。美桜は裁ち鋏をあてたままだった。 「──美桜の声、初めてちゃんと聞いた」やっと出てきた言葉がそれだった。  鮫島さんの車は白いトヨタのクラウンだ。心春はキーを差し込んでエンジンをかけた。先に美桜が乗る。私はスーツの男を車に押し込んだ。美桜は素早く男の腕を掴んで、再び喉元に裁ち鋏をあてていた。 「──免許は?」男は口を開いた。 「持ってるわけないでしょ! でも運転は出来るから」心春はギアを動かしサイドブレーキを下ろすとゆっくり車が動き出した。「オートマしか運転できないけどね」そう言ってアクセルを踏んだ。  心春はどこに向かっているかはっきりしているようだった。細い道を迷いなく曲がっていく。 「こんなことしてタダですむと思うなよ。俺が誰だか知っててやってるんだろうな?」男はドラマの悪役みたいなことを言った。 「知らないよ」私は言った。「知ってても知らなくても関係ない。私たちは鮫島さんが死んじゃった時点で終わってるんだから」 「そうだね」心春は小さく吹き出した。「終わってるんだから関係ない」  私たちはそう言い合って笑った。 「狂ってるな」男はそう小さく呟いて舌打ちをした。
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