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 心春は生麦JCTのところを駅側に向かって曲がった。そして駅まで行かずに左に曲がって細い道に入ると車を停めた。そこは駐車場だった。「通報されると困るから」心春はそう言って車を降りるように言った。私が若槻の腕を掴んでいた。若槻は不思議と暴れたりしなかった。  若槻は鮫島さんより背は低かったけれど、それでも175㎝以上はあった。腕を掴んだ感じだとけっこう筋肉質だなと思った。細マッチョってやつなのかもしれない。だとしたら逃げようと思えば逃げられるのに、どうして大人しくしてるのだろう。  心春は駐車場から少し歩いたシャッターの前で立ち止まった。そのままシャッターを上げると中に入るように言った。中はコンクリート造りでがらんどうだった。真っ暗だった。心春は何やら外でやっていた。すると突然明るくなった。古い電球だったけど、それでも歩くのには困らない明るさだ。中にはビールケースが転がっていた。昔は何かの店だったのかもしれない。 「茉莉って覚えてる?」心春は突然私に言った。確かこの間出て行った子だ。 「彼氏と住むって言ってた?」 「そうそう。ここって茉莉の彼氏の叔父さんのとこなんだ。叔父さんはいま日本にいないし。時々二人で煙草吸いに来てた。ほら鮫島さんは煙草にはうるさかったでしょ?」  煙草は火事になると困るからって禁止されてたっけ。そもそも吸える年齢じゃないけど。 「心春が煙草を吸うの知らなかった」 「時々しか吸わないもん」そう言って心春は肩をすくめた。 「──タバコの吸い殻」美桜はまた急に口を開いた。「ねずみの前の日、そう言ってた」 「というか、どうして美桜は鮫島さんが言ってたの聞いてたの?」私は不思議に思ってたことを尋ねた。 「だってが起きたら起きるじゃん」 「ぴっぴ?」 「はあ? おっさんと付き合ってたの!」心春は大きな声をあげた。美桜はそれを聞いて眉を寄せた。 「付き合ってはないけど、推しっていうか。ぴっぴだもん、ね?」最後の『ね?』は背後に背負われた熊に向かって言われた言葉だった。 「もしかしてガチか……」心春は呆れたように呟いた。「誰かがおっさんのご飯を作ってるって聞いたけど」 「朝はぴっぴが掃除してる間、ご飯を作るの。一緒に食べようって毎回誘うんだけど、自分の部屋で食べるからって。恥ずかしがり屋さんだから」  いや、それはソフトに断られているのでは。そう言いかけたけど、なんとか言わずにすんだ。 「茉莉が言ってたのってホントだったんだ……」心春は納得したように呟いた。
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