第二章 深い悲しみ・続2

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第二章 深い悲しみ・続2

慣れてる人ならここでこんな話が始まることはないんだろうけど、始め方なんか分からないし、この質問に正直に答えていいものなのかも迷うほど。答える様子のない僕を見て煙草を吹かしながら「まぁ、気が向くまで待つよ。ただ時間内には出ないと延長料金取られるけど」とソファに脚を組んで座っている。 1本目を吸い終わったようで、灰皿に煙草を押し当てたのを見て僕から質問をしてみる。 「年が変わらなそうって貴女は何歳なんですか?」ペットボトルの水を一口だけ喉を通すとベッドの真ん中に座っている僕の脚に跨り両手で頬を包んできた。 「女の子に年齢聞く時は「失礼ですけど」って先に軽く謝罪するものだよ?」少し口角を上げてそう答えた。学校の女子以外と話すのが初めてに等しい僕には、そんな飾り言葉は聞いたことがなく、今日は何回初めてを体験して、どれくらい大人に近づけるのだろう。 そう思っていても年齢を応えてくれることなく、対面するように僕の脚に跨り頬をフニフニ触っているだけ。もう一度「失礼ですけど、何歳ですか?」と聞いてみると、さっきとは違う優しい笑みで「よく出来ました」と頭を撫でているけど、質問の答えは返ってこなそう。何歳であってもこれからの事については関係ない。 頬や頭を撫で続けられる一方でこの後の展開をどう広げればいいのかが、僕にとっての今の課題だった。ここからどう始めるものか。相手に委ねるしかないと思い「年齢はもう答えなくてもいいので、この後どうやって始めればいいですか?何をどうすればいいかもこういうシステム分からないので」と問いかけた。さっきまでの優しい顔はなくなり、少し冷めたような視線に変わったと思ったら、見間違いかと思うくらい早く優しさの視線を向けた。女性の顔はこんなにも変幻自在なんだなと関心したほどに、その変わりようは早かった。 優しさの顔のまま鼻と鼻が付きそうなくらい顔を近づけ小さく囁いた。「名前、かなえ。これからかなえって呼んでから話して?」言う通りにしたらちゃんと応えてくれるのか。「かなえさん、この後どうやって始めればいいですか?分からないのでリードしてください」 またしても優しい顔をして、かなえさんの右手親指が僕の左半分の唇を撫で、口角に指が触れると軽く付くだけのキスが落ちてきた。本当に一瞬だったけど、その間にこういうふうに始まるのかと思ったのも束の間、さっきまで目が合わないくらい近くにあったかなえさんの顔は目が合わせられるくらいに離れていた。 ここでもまた初めてを体験した。中学2年で初めてのキス、しかもお金を介して。こんな初めては誰にも言えないけど、辞めたいと思わなかった。お金だけの関係、それだけが今を繋ぎ止めてくれるこの時間でさえ、心做しか温もりに触れることが出来た気がした。 かなえさんが、今何を考えているのか気になり、かなりの愚問を投げかけてしまった。「かなえさん。今どんな感情ですか?」と。 顔色を変えず「本当に全部初めてなんだなって。絶対高校生より下でしょ?中3?」と少しおちょくるように答えた。 この短時間での関わりで高校生にも見られないって、この人はどれだけの人を相手にしてきたのか検討がつかない。流石にどれだけの人を相手にしたかを聞くのは、年齢を聞くよりも機嫌を損ねることは分かる。触らぬ神に祟りなしってこういうことを言うんだろうな。 かなえさんに抱かれようと意を固め「年齢は中学生です。学年は非公開で。…このまま僕のことを抱いてください」と奉仕してもらえるように伝えてみた。何か機嫌を損ねるようなことを言ったのか、瞼がピクつき「さっき、名前を呼んでからって言わなかった?」と怒るのではなく、粗相をしたペットに注意するように話した。左手で後頭部を撫で、右手で喉仏を下から上になぞり口の中に細い中指を少し入れてきた。「言うことを守れない子にはしてあげない。もう1回言える?」 あ、この人はサディスト側だ。この状態も恐らく僕が犬って事なんだろうけど、今日はもうそれでもいい。「かなえさん。…、このまま僕のこと抱いてください」 まさに小悪魔という言葉が相応しく思える笑みを向けて「ちゃんと言えるじゃん。もうそういう流れって分かってきてるね、理解早い子好きだよ」と答えた。これで主従関係ができた。今日だけ、僕はかなえさんの犬になる。 「どんなプレイをご所望で?基本的になんでも受け入れてあげる。あと今から君の名前はポチね」 優しさの中にどこか冷徹さが織り込まれてるその視線から目が逸らせない。「逸らすな。私をだけを見ろ」そう言われてる気がした。多分僕と大して変わらない年齢の女子に見惚れて、徐々に翻弄されていく。
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