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第3章 見ようとしなかった世界・続
「初めて好きかもって思えたのがかなえさんだからです。そんな人が殺されて死因もはっきり分からないのは酷ですよ」
男はどこか困惑したような目をして答えた。
「この界隈で人を好きになるのは失望するから、今後気をつけな。パパ活で生きてる奴らがほとんどだし自分が傷付くだけだぞ」
僕が求めていたのはそんな事じゃない。その話をしていた人の名前を知りたかった。教える気は無いのか男が前みたいに話続ける様子はなかった。最後に「その話をしてた人の名前教えてもらえませんか?」と問いかけた。どうしても僕をこの世界には入れたくないのか男は問いかけに答えてはくれなかった。
もう話すことは無い。店を出ようと立ち上がると男が話し始めた。
「もうこれを機にここには来るなよ。今のお前の顔やばいぞ」
どんな顔をしているかなんてどうでもいい。「これ以上教えてくれないなら自力でこの狭い世界からその人を探します。ちゃんとした理由が知れるまで何百回でもここに来ますよ」
そう伝え店を出た。
ここからすること。江上を探して、何か知っているかを聞く。そこから事情聴取を受けた人を探す。
江上の連絡先は知らないけど、この狭い中からなら難しくはない。この前江上を見つけた場所に行けば恐らくいるはず。そう思い足早にそこへ向かった。前もこの時間に来たっけ、そんなことを思いながら江上を探すため辺りを見渡していると、前と同じような光景が広がっていた。あの日のことがフラッシュバックして頭の中に映像フィルムが流れるように記憶が駆け巡った。その中で江上があの群衆に混ざっていた場所を思い出す。大きい映画館横の広場、そこに行けばいるはず。不確かで不鮮明な記憶だけど、ここでは江上の他に知り合いはいない。
映画館が近くなると、さっきとは違う男女の交わりが頭の中に飛び込んできた。その中から1人の女子を探す手段は端から観察をする。それしか思いつかなかった。
広場に着いてから数時間、江上らしき人は見かけない。
今、江上は何をしているのだろう。かなえさんと同じように身売りをしているのか、違う場所で似た者同士集まって過ごしているのか。
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