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始まり
時は遡る事、江戸時代。
元々、この村は鬼神様が村を守っていた。
鬼神一族はその昔、鬼神と巫女により生まれた半神半人が度重なる村の飢饉や、時の権力者の戦いから守って来たとされていた。
しかし、いつしか人間の血が濃くなって行き、鬼神様の力を宿した赤子が生まれなくなっていた。
そんな中、100年に一度生まれる鬼神様の力を受け継いだ那津が生まれた。
しかし、人間の身体に神力は強過ぎて、那津は病弱だった。
病に伏せている時間が長く、いつも見る景色は屋敷の窓から見える景色だけだった。
そんなある日、那津の姉、初の婚約者として選ばれた頼久が那津の前に現れた。
江戸から来たという頼久は、明るくて誰に対しても優しい男だった。
床に伏せている那津を心配して、那津を背負い庭を走り回ったり、川原まで連れて行ってくれた。
那津にとって、頼久は自分に外の世界を見せてくれる唯一無二の存在だった。
そしていつしか、二人は想いを通わせるようになって行く。
しかし、鬼神の能力を持つ那津と、鬼神家の婿養子として迎えられた頼久との恋は、叶わぬ恋だった。
どんなに愛し合っていても、決して届かぬ想い。
那津の生命力は、頼久への想いに比例してどんどんと弱まって行き、村人達は不審に思い始めて行く。
そしていつしか、那津の生命力は頼久によって奪われていると噂されるまでになってしまったのだ。
婚約者の初とは清い関係であったのは周知の事実だったが故に、頼久と初の婚約は雪解けした春に解消となってしまった。
そうなると、江戸に帰されてしまう頼久。
那津は頼久が江戸に帰される前日、頼久に頼んで桜の木が見える離れに連れて来てもらった。
満開に咲いた桜の花を、2人並んで見上げていた。
閉鎖的なこの村から追い出された人は、二度とこの村には戻れない。
今生の別れとなってしまうことを、二人は分かっていた。
後数センチ指を動かせば、互いの指が触れ合える距離で縁側に腰掛けて桜を見あげていた二人。
その沈黙を破ったのは、那津だった。
ゆっくりと日が傾き始めた頃
「そろそろ冷えて来るから、帰ろうか」
那津の肩に上着を掛けた頼久の手に触れ
「お願い……僕を抱いて……」
那津に縋るように言われ、頼久は掻き抱くように那津の細い身体を抱き寄せた。
幾度となく身体を重ね、お互いの熱を……想いを……忘れぬように。
まるで刻み込むように身体を重ねた二人。
気が付くと、外はすっかり夜の帳が降りていた。
素肌を重ね、抱き合う二人。
「このまま……ずっと二人で居られたら良いのに……」
そう呟いた那津の唇に、優しく頼久の唇が重なる。
この時、那津は幸せの絶頂だった。
愛する人も自分が好きで、こんなにも求め愛されて、大好きな人の腕の中に居られる幸せに浸っていた時だった。
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