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俺と蒼介さんは、蒼介さんの大学卒業と同時に都内に引っ越して来た。
理由は蒼介さんの就職先が、桐楠大学附属高校の兄弟校である都内の開進大学附属高校になったからだ。
それまで働いた秋月商事を辞めて、蒼介さんに着いて行った理由はもう1つあった。
実は翔さんが秋月商事を継がず、警察官になってしまったのだ。
剣道を続けたい翔さんが、悩んで出した結論だった。しかも地方の島の駐在さんになってしまい、葵さんとは遠距離恋愛になってしまった。
そして遂に今年、葵さんは大学を卒業して翔さんの居る島の小学校の先生として行ってしまう事になってしまった。
今までは車で飛ばせば2時間弱で会える場所にいた葵さんが、高速船で1日掛けないと会えない場所に行ってしまう事が、蒼介さんには堪らなく寂しいらしい。
それで、島へと渡る前にみんなで桜の花見をする事になったのだ。
「蒼ちゃ~ん!」
「あおちゃ~ん!」
出会い頭、抱き合う2人。
「おい、良いのかよ」
口をへの字にした翔さんに
「葵様と蒼介さんのあれは、挨拶ですからね。あれに目くじら立てるなんて、翔さんは小さいですね」
嫌味たっぷりに呟くと、翔さんは益々口をへの字に曲げた。
幼い頃から見て来た翔さんの癖は、全て分かる。
でもきっと、今は葵さんしか知らない顔もあるのだろうと思うと、少し寂しい気持ちにもなる。
「わぁ!凄い!」
翔さんをからかいながら感傷に浸っていると、葵さんの声が耳に届いた。
「これ、全部蒼ちゃんが作ったの!」
目を丸くする葵様に、朝から一生懸命作ったお弁当をドヤ顔で披露する蒼介さんに笑いを堪える。
今日の為に、蒼介さんはずっと料理を頑張って来た。
「葵ちゃんに食べて欲しくて、頑張ったんだよ」
「……とか言って、本当は田中が作ったんじゃないのか?」
葵様の言葉にご機嫌になっていた蒼介さんに、翔さんが横槍を入れている。
「翔さん。今回のお弁当は、蒼介さんが一人で頑張ったんですよ」
プクっと頬を膨らませた蒼介さんをフォローすると
「蒼ちゃん、サンドイッチ食べて良い?」
すかさず葵様が蒼介さんに声を掛ける。
「食べて、食べて!これは玉ねぎのみじん切りに鯖缶とクリームチーズと粒マスタードであえたんだ。本当は、軽く焼いたバゲットで食べると美味しいんだけどね。それからこっちは厚焼き玉子で、こっちはハムでこっちはキュウリ!」
「この卵焼き、俺の味だ!」
今回、蒼介さんはサンドイッチを5種類作った。
その中でもたまごサンドは、厚焼き卵を挟んだたまごサンドにしたこだわりよう。
「分かった?僕、葵ちゃんの卵焼きが大好きだからさ」
「蒼ちゃん、俺のも食べて!」
お互いのお弁当を見せ合い、キャッキャとしている姿を微笑ましく見ていると
「何だよ!散々待たせて、トイレに行ってた俺ら無視かよ」
背後から、蒼介さんの弟の章三君が現れた。
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