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那津の身体が白く発光し始めたのだ。
「な……那津?」
驚く頼久が自分の名前を呼んだ瞬間、突然、頼久が口から血を吐き出した。
「頼久!」
グラリと自分に倒れ込んできた頼久の身体を抱き締めると、那津の手にヌルりとした感触と血の匂いが漂い始めた。
そして暗闇の向こう側に、頼久を刺したであろう人物と刀の鈍い光が見えた。
「い……や……だ、嫌だ……頼久、死んだら嫌だ!」
叫んだ瞬間、強烈な白い光が那津の身体から発していた。
「遂に覚醒なさった!」
いつから居たのか、気が付けば離れに村人が集まっていた。
「どうして……?どうして殺したの?」
涙を流す那津に、頼久を刺し殺したであろう父親の顔が月光と暗闇に慣れた那津の目に浮かび上がって来て愕然とした。
ゆっくりと刀を鞘に戻すと、那津の父親は
「生贄に選ばれたのだ、仕方ない」
と短く答えた。
「生贄?」
「そうだ。お前が鬼神に覚醒するには、愛する人と結ばれなければならない。女だったら、新たにお前の能力を持つ赤子を宿す事が出来るが……男ではそうはいかん。だから皆で話し合い、お前と結ばせてから男を殺し、お前には儂らが選んだ女と子供を作ってもらうことになったのだ」
平然と言われ、那津は呆然としながらも自分の腕の中で頼久の体温がゆっくりと失われていくのを感じていた。
「二十歳までに覚醒しないと、お前の器は身体に流れる鬼神の力に負けて死んでしまう。だから、初には申し訳無かったが頼久との婚約を解消させて、お前が別れを惜しんで結ばれるきっかけを作ったのだ」
次々と明かされる事実に、那津は気が狂いそうになった。
那津は、自分が愛さなかったら頼久は姉と結婚して幸せになっていたかもしれない。
こんな風に、殺されずに済んだのかもしれない。
そう考えただけで、頭がおかしくなりそうだった。
すると
「那津様が覚醒された! 祭りじゃ! 宴じゃ!」
たった今、一つの命を奪った事を何とも思ってもいないかのように活気ずつ村人達を、那津は涙を流しながら眺めていた。
そして屋敷の周りに次々と松明が焚かれ始め、明るくなった室内には、いつの間にか綺麗な女性が3人座っており
「那津様のお子を宿す為の妻達です」
と紹介された。
村人同士では血が濃すぎて子供を作れない為に、近隣や江戸から連れて来られたのであろう。
女達は三つ指をつき、深々と頭を下げた。
「さぁ、那津。いつまでも血まみれな男の死体など抱いているな。お前はこれから村の繁栄の為にその力を使い、村の為に子作りに励め」
そう言って笑う父親を見て、那津は自分の耳を疑った。
たった今、頼久と愛を交わした自分に、他の女性と子作りをしろと言い放つ父親が……村人が憎くなった。
神力のせいで身体が常に弱く、辛い思いをしても耐えていたのは、こんな事の為では無いと叫びたくなった。
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