19人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
この日、どうやって帰宅したのかは覚えていない。
気付いたら家でご飯を食べていた。
悲しくてもご飯を食べられるって事は、まだまだ俺は大丈夫なんだと思う。
翌日、夏生さんの家に行こうとしたら、何故か夏生さんの家が見つからない。
見つからないというより、存在しないと言った方が正解かもしれない。
あんなに「近付いちゃいけない」と言っていた両親はもちろん、村の人誰一人として庭に大きな桜の木がある平屋を知らないのだ。
俺はこの日から、毎日神社に1日100円のお小遣いを賽銭箱に投げ入れて
『夏生さんが人間に生まれ変われますように』
『再び夏生さんと出会って、今度はお互いに死ぬまで一緒に居られますように』
と祈り続けた。
夏が来て秋が過ぎ、冬になって春が来る。
桜の木の下に、儚く微笑む夏生さんを想って胸が痛かった。
夏生さんの居ないの世界は色褪せて、俺は生きてるけど死んでいるみたいだった。
「夏生さん……」
ポツリと名前を呼ぶ度、涙が止めども無く流れた。
そんな日々を3年過ごした夏。
俺、渡良瀬 秋は、いつも通りに神社にお参りに行った帰り道、観光客の大学生が運転する車に轢かれて生涯の幕を下ろした。
夏生さん。
生まれ変わったら、必ず見つけ出すからね。
だから、それまで待っててね。
最初のコメントを投稿しよう!