現在から未来へ

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現在から未来へ

「……ん、………ちさん」  遠くで声が聞こえる。 「陽一さん!」 力強い声に、ハッと我に返る。 俺を見上げる薄茶色の瞳を見て (あぁ……、ちゃんと出会えたんだな) そう想ったら、涙が込み上げて来た。 それは悲しい涙では無く、愛しさとか切なさとか……色んな感情だった。 「陽一さん? どうしたの? なんで泣いてるの?」 色素の薄い薄茶色の瞳が見開かれ、俺の頬に流れる涙に両手でそっと触れた。 その手は温かい、血の通う手だった。 思わずギュッと抱き締めると 「よ、よ、よ、陽一さん。ここ、外!」 首まで真っ赤にして、今世でようやく結ばれた大切な恋人、赤地蒼介のうろたえる肩に額を当てた。 「蒼介さん、愛しています」 ポツリと呟いた俺に、狼狽えていた蒼介さんは俺の背中を優しく撫でると 「知ってます。……でも、僕の方がその何倍も、何百万倍も愛してます」 そう言って、ふわりと微笑んだ。  求めて求めて止まなかった愛する人。 その理由が、分かったように思う。 「陽一さん。それより早く行かないと、あおちゃん達が待ってるよ」 抱き締める俺の腕の中で、幸せそうに笑う蒼介さんを再び強く抱き締めた。 すると強い風が吹き、桜の花びらが視界を塞いだ。 「秋君、ありがとう」 遠くから、そう呟く声が聞こえたような気がした。 すると、再び涙が1粒流れて落ちて行った。 舞い上がる桜と共に、涙が舞い上がって天へと昇って行ったように見えた。 「凄い風だね」  ポツリと呟いた声に視線を向け、今、自分達がめちゃくちゃ注目を浴びている事に気付いた。 「蒼介さん?」 「はい?」 「俺、なんでこんな往来で、蒼介さんを抱き締めているんです?」 と聞くと、蒼介さんは呆れた顔をして 「それは僕が聞きたいよ!」 そう言うと、そっと俺の頬に触れ 「大丈夫? ここの所忙しかったから、疲れているんじゃない?」 と呟いた。 触れられた頬が冷たいのにも気付き 「え? 俺、泣いてたんですか?」 慌てて聞くと 「本当に大丈夫? 今日、無理ならこのまま帰る?」 とまで言われて、心配されてしまった。 「何か……大切な事を忘れているみたいなんですよね」 そう呟く俺に、蒼介さんは小首を傾げて 「大切なこと?」 と聞き返した。 「でも、まぁ……そのうち思い出しますよ、きっと」 俺はそう言って、抱き締めていた蒼介さんの身体をそっと離し 「さて、そろそろ行かないと。きっと葵様が、首を長くして待っていらっしゃいますよ」 そっと蒼介さんの背中を軽く押して歩き出した。 小高い坂道を上ると 「蒼ちゃん! 田中さん!」 元気な声が聞こえた。 桜が並ぶ公園の中でも、一際大きな桜の木の下にブルーシートを敷いて久しぶりに再会する顔触れに笑顔を返す。
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