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プロローグ
春になると、ソメイヨシノが咲き乱れ、人々は花見を楽しんでいる。
だけど俺は、何故かソメイヨシノを見る度に、悲しいとも……切ないとも言い難い感情に支配される。
久しぶりに揃ったメンバーで、桜の名所百選に選ばれた公園に花見に来ていた。
圧巻の桜並木を歩いていると
「桜の花に魅せられてはダメだよ……
あの世に連れて行かれてしまうからね」
そう囁く声が聞こえて、思わず歩みを止めた。
懐かしい声に振り向くと、一際大きな桜の木の下に、小さく微笑む愛しい恋人の姿が見えた。
しかし、よく見ると今より年齢が上に見える。
「秋……」
その人の声が、俺では無い人の名前を呼んだ。
刹那、突風が桜の花びらを空へと舞い散らせ、俺の視界を塞いだ。
そして再び目を開くと、俺は遠い過去へと誘われていた。
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