知らぬが花

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 花見の季節は、より美しく桜の花が映える場所を選び、美食に舌鼓を打つのが一種の風流である。  風流は財力で手に入れられると言わんばかりに、あるお偉方一家が桜の絶景スポットとして名高い高級旅館を貸し切り、優雅にも花見を楽しんでいた。  特にレストランは一面ガラス張りで、その奥一面は桜の木々が所狭しと並び、花見をするにはこれ以上の絶景は無いと太鼓判を押していた。  無論、出される料理も高級な和食ばかりである。一家は得意げに箸を口に運び、桜の絶景を見て花見を楽しんだ。 「まあ、何て素敵な桜の景色。是非主人にも見せてあげたかったわ」  どうやら主人は急用の為、欠席のようである。  実を言うと、この花見は主人が最近左腕の骨折が治癒したことの快気祝いも兼ねていた。  残念そうな口調とは裏腹に夫人は箸を止めずに料理を次々と口に運んでいた。  その息子二人と娘一人はスマホを片手に景色やら料理を撮ることに夢中になっていた。  すると料理長が突然やって来て、一家にこう告げた。 「ただ今より特別な肉を使った料理を振舞いたいと思います」  運ばれてきたのは厚切りのステーキ料理であった。 「これは何の肉かしら?」  一見、高級な牛肉を使用した厚切りステーキにも見える。疑問を抱きながらも口に運ぶと、それはとろけるような柔らかい食感と肉汁が溢れ、天にも昇るほどの美味であった。 「んま~、これは素晴らしい料理だわ。是非主人にも味わわせてあげたいわ!」  一家は大層ご満悦な様子であった。
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