【短い物語】夕焼け空に浮かぶ優しさ

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 毎日登校、時間厳守、周りに合わせて。  こんな窮屈なルールを、皆は当たり前のように守り、普通に生きている。  紅に染まった午後16時、僕は果てなく広がる空を仰いで、朝のことを思い返した。  「どうして遅刻したんですか?」「……寝坊です……」毎日聞かれる度に、嘘を重ねていく。「苦しくて起きられませんでした」なんて言っても、信じてもらえないだろう。「寝坊かよ〜」呆れたように笑う先生に合わせて繕った笑顔は、自分でも分かるくらい引き攣っていた。  やっとの思いで学校に辿り着いた瞬間、チャイムの音が鳴り響く。職員室に行くまでに会う先生たちの冷たい視線と挨拶、あの質問、教室に入ったときの異様に静かな空気。色々なことを想像して、胸が苦しくなる。  毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日この繰り返し。  行き交う人々を見ていると、世間のルールに馴染めない自分が異常な奴に思えてしまう。本当は普通に楽しく、皆と同じ世界観で生きたい。でも、皆の存在する世界が、僕には窮屈すぎて…。  真紅の空が、涙で歪む。  ………と、そこに、先生が来た。  「あっ、さようなら…」細く強く震える僕の声から何かを察したように、先生は優しく笑った。「俺、知ってるぞ」「えっ…?」「毎朝聞くあの質問。お前が嘘答えてること」「……そんなこと…」「お前の苦しみを完全に理解することは出来無いけど、必死に生きてるのはあの笑顔で分かる。諦めずに学校来てて偉いな」  僕は、このとき初めて、素直に笑った。  「ありがとう、先生」
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