百年の恋も冷める出会い

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(こんのっ! どこまで揶揄うのさっ!)  腹いせに何か文句をいってやろうと思うのだが、残念なことに性格以外の短所が見つからない。また物を投げられては困るので憤慨しつつも口を一文字に結び、ふんっと顔を背けて牛車から飛び降りた。  勢いよく飛びだした矢先、行く手に九本の尾をなびかせる妖狐が立っていたことに気がついた。 (やばっ!)  白夜の体は宙を舞っている。このままいけば激突すると思われたその時。ふわりと妖狐に受け止められた。白夜の体はぽすっと妖狐の胸に収まり、飛びだした体勢のままに抱っこ状態となってしまった。 「危ないですね。怪我はないですか?」  妖狐は軽々と白夜を抱え、金色の瞳を優しげに細める。  顔をあげてみれば銀色の髪がさらりと風になびき、白皙の肌が月光を受けて輝いた。やわらかな声色は女にしては低く、男にしては高い。儚げでありながら、どこか妖艶な雰囲気を持つあやかしだ。  こちらも上下繫がりの衣を銀糸細工の成された水色の帯で締め、同じく白い細身袴を履いている。受け止めた衝撃で衣の裾が軽く舞いあがった。 「あ……ごめんなさい」 「いいのですよ。わたしは玉藻。九尾のあやかしです。これからよろしくお願いしますね、白夜」 「はい、よろしくお願いします」  鷹揚な話し方といい、妙に艶のある声といい、中性的な美貌も相まってなぜだか顔が火照ってくる。 (あやかしって皆こうなの? 美形すぎない?)  玉藻の胸の中でぽうっと惚けていると、不意に首根っこをつかまれた。  白夜の体が玉藻から引き離され、宙ぶらりんとなる。 「え」 「さ、行くぞ」  背後からかかった声は黒天狗のものだった。 (なんで俺、猫みたいに吊されてんの)  片手で胸の前に白夜を掲げたまま、黒天狗はくるりと踵を返す。  自動的に白夜の体もくるりと回転した。  視点が切り替わり、白夜の目に山頂が映り込む。  ここから真っ直ぐに伸びた山道のてっぺんに、大きな月を背景に御殿と遜色なさそうな大きなお屋敷がみえた。 「う、うん。その前に下ろし……」 「悪い子にはお仕置きだ」 「俺、何も悪いことしてない」 「俺から離れたら鬼に襲われるかもしれんだろう」 「そうだけど、この格好で行く必要は……。これ、鬼にみつかったらまっ先に食われるよね。もしかしてわざと突きだしてる?」 「気のせいだろ」 「な、何か怒ってます?」 「玉藻なんぞに惚けているからだ」 「えっ」 「俺の玩具(おもちゃ)は誰にもやらん」 「玩具⁉ いま玩具っていった⁉」 「気のせいだろ」 「絶対、気のせいじゃな――いッ!」  憤慨してバタクタと足掻いてみたのだが、結局屋敷に入るまで宙ぶらりんのままだった。 
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