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その後、十日かけて半分をクリアした。
黒天狗は相変わらず岩山の上で酒を呑みながら見守ってくれている。
毎晩まぐわうのは相変わらずだけど、尻を揉まれることはなくなった。あの時はてっきり黒天狗の新たな性癖をみたのかと思った。ならばできる限り応じてあげたいと、朝早くに目覚めてから悶々と思案したのだが。
(心配することなかったみたい)
朝から飲んだくれる黒天狗に笑みを浮かべ、白夜は顔を引き締める。
訓練のかいもあって跳躍はだいぶ感覚がつかめたように思う。
距離感をうまく測れるようになり、着地の際に体勢がぶれることもなくなった。
あとは瞬発力。柱が光ったそばから的確に方向を定めて足を蹴る。集中を高めれば一定数こなせるのだが、ある時からいくら頑張っても先へ進むことができなくなってしまった。
「目で見ちゃだめえ」
「ダメよう」
「感じるのう」
「感じる?」
困り果てた白夜にハクがアドバイスをくれる。
「妖気。感じるのう」
「むずむずーってなるのう」
「ぶあああってなるのう」
「どういうこと……」
感覚的なものはハクたちの間でもそれそれ違うのかもしれない。
とにかく目視してから飛んだのでは遅い。
「妖気か……」
柱が光った時、白夜はその根幹に意識を向ける。
地面に置かれた木の葉からわずかに妖気が溢れている。
白夜の感覚でいえば、ふわっとした感じだろうか。
(そうか。これなら柱が出現する前に場所がわかる)
それからは柱ではなく、地面に目を向けるようにした。
どこかの木の葉が妖気を纏った瞬間、そこを目指して飛ぶ。
飛びだした時に何もなくても飛んでいる最中に半透明の柱は出現し、着地と同時に固体となった。
「いけそう……」
何度か練習したのちに白夜は開始地点の柱に立った。
一度目を閉じ、深呼吸してから口をひらく。
「お願いします!」
「よーい、どん!」
「どおん!」「どおおおん!」
左奥にふわっとした感覚。次に右、左。白夜の動きは俊敏だった。自身では理解していなかったが、しゅんしゅんと風を切る。常人には捉えきれぬ動きで次々と柱を蹴った。
白夜の速さが時に柱の出現を超えることもあり、少々待つことさえあった。
そして最後の柱を踏んでにっこりと微笑む。
「できた!」
「わあああっ! すごーい!」
「すごーい! 白夜、おめでとうーっ!」「おめでとうーっ!」
三つ子が目を輝かせて立ち上がる。
パチパチと拍手をして、お尻から生えたもふもふの尻尾を風に揺らし空を飛ぶ。
(飛ぶこともできるんだね⁉)
小さくて愛らしいからつい侮っていたけど、そういえばこの子たち百歳を超えているんだった。妖狐としての能力もとっくの昔に開花させていたのだろう。他にどんな力があるのか少々気になった。
唖然としつつ、白夜は飛びついてきた三つ子を腕いっぱいに受け止める。
ふわふわとした尾が喜ぶように動きまわり、顔や首筋をかすめる。
嬉しさとくすっぐったさに破顔していれば、そこへ不機嫌そうな声が降った。
「おい、クソ餓鬼ども。離れろ」
白夜はキョトンとして声の主を振り返る。
「お館様」
「白夜を褒めるのは俺の役目だ」
そういって、唇を重ね合わせた。
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