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「……ん」
「わあ。お館様と白夜、仲良しなんだねえ」
「いいなあ」
「いいなあ。お館様、僕たちにもご褒美……」
指を咥えるハクたちを黒天狗は鬼のような顔で睨めつけた。
その傍らで白夜は顔を真っ赤にして背ける。
不意打ちとはいえ、ハクたちに見られたことが恥ずかしかった。
「おまえたちにやる褒美はない」
「ええ」
「白夜ずるうい」
「ずるうい。じゃあ白夜のちょうだあい」
白桜がいった瞬間、ごんっと脳天にげんこつが落ちた。
「白夜は俺のものだ。クソ餓鬼にはやらん」
「いだあああい」
「お館様ってば! 殴ることないでしょ! おいで、ハク」
あたまを抱えて泣きだした白桜を抱きしめて叱咤すると、黒天狗は苦虫を噛みつぶしたような顔を浮かべた。
「おまえ……俺よりそいつらがいいのか」
「そんなこといってないでしょ!」
「じゃあ何か。そいつらにねだられたら、また……」
「違うったら! 暴力反対っていってるの!」
「では暴力をやめたら何をしてくれる」
「なにって……そんな交換条件みたいな」
ひくっと口もとを引きつらせると、黒天狗はそばにいた白梅をひょいと持ち上げた。宙ぶらりんとなった白梅が「え?」って顔をしている。
これではまるで人質のようじゃないか。
白夜はさらに口もとを引きつらせた。
「何をして欲しいの?」
「そうだな……おまえからの口づけでどうだ」
「ここで⁉」
「場所など関係あるか」
「ハクたちがいるのに⁉」
「こうみえてこいつらはジジイだ、老木とでも思えばいい」
ジジイじゃないもーんッ!
ぷうっと頬を膨らませたハクたちから次々と抗議の声があがる。
「しないなら……」
空いている右手が宙ぶらりんの白梅にかざされた。
視線を上に向けた白梅がうるうると目を潤ませる。
「わかったってば! するよっ」
「ほら、こい」
ニヤリと笑った黒天狗に白夜はずかずかと歩み寄り、勢い任せにちゅっと唇を重ね合わせた。
「終わりっ! これでもう……」
「足りんな。舌も寄越せ」
「し……っ⁉」
そうした口づけはもう何度もしてるが、だいたいは黒天狗からしてくる。それをじっと二人のやり取りを見つめるハクたちの前でやれなんて。
「ハクたちの教育に悪いっ」
「何かを学ぶ前にここで息絶えるかもな」
「……っもう!」
白夜は黒天狗の首に抱きつくと、深く舌をねじ込んだ。
紫色の瞳が揶揄うように笑う。
悔しくて舌を吸い上げた。だけど黒天狗はされるがままで動こうとしない。歯列をなぞって上顎をつつき舌を絡め取れば、ようやく黒天狗の舌が応じてくれた。
「だいぶ上手くなったな」
いってまた口づけをする。白夜の体をしなるほど抱きしめ、深く交わる。
黒天狗の手にはもう白梅はいなかった。
二人の足もとでぽけっと上を見上げている。
くちゅくちゅと音が立ち息づかいが荒くなったころ、ようやく黒天狗は白夜を解放した。
「お望みどおり、こいつらに手をだすのはやめてやる」
「……頼みごとをするのも一苦労だよ」
真っ赤になって俯くと、耳もとで黒天狗がささやいた。
「どうせ夜もするのだから、頼みはきくつもりだったがな」
「なっ……」
くくくと笑い声が立つ。
「白夜の顔まっかあ」
「まっかだねえ」「まっかだあ」
白夜はもう、何もいうことができなかった。
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