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「んんんっ……!」
「はあ…うまい。いつまでもしゃぶっていられるな」
「そこでしゃべらないで……うあっ」
「こんなに我慢汁を垂らして……。本当にいやらしい体になったものだ」
「誰のっ……せいだと思っ…うあっ!」
じゅるりと肉棒を吸われて白夜は身悶える。
「俺のせいか? それは嬉しいことだな」
黒天狗は舌先で肉棒の先端を舐めながら、両胸でツンと立った媚芯をコリコリと擦る。
「ひあっ! 全部一緒にしちゃ…だ、め」
「両方いじられるのが好きだろう」
「イクッ! もうイッちゃう!」
「今夜も飲んでやる。たっぷりだせ」
いって、唾液で濡れそぼったものをしごきはじめる。同時に口に含み、舌を絡めて吸いあげた。股間に埋めた黒天狗のあたまが激しく上下し、じゅぷじゅぷと淫靡な音が響く。快楽の波が激流となって上り詰め、白夜は一際高い嬌声をあげた。
「おやっかた、さ、ま……!」
どぷっと熱が弾ける。何度か喉をならし、最後の一滴まで綺麗に舐め取った黒天狗はやや乱れた衣を整えながら起きあがり、息を切らす白夜のあたまにポンと手を乗せた。
「明日の夜だがな」
「……ふぇ?」
「少し出かける」
いつも思うのだが、こういった行為をする時に興奮しているのは白夜ばかりだ。もちろん黒天狗からも情熱は感じる。恥ずかしいことをいって煽るし、敏感なところはもとより、体中を愛撫してくれる。表情や声も普段は見せない甘さをもち、艶美な一面を見せつけてくるのだ。
けれど、なんというのか。
余韻がないのだ。呼吸もさほど乱れていなければ、衣だって。いつも気持ちよくなるのは白夜だけで、黒天狗が達したところはみたことがない。
だから黒天狗は冷静を取り戻すのも異様に早い。体を重ねている時はたしかに同じ熱を感じるのに、終わったあとの温度差にふと寂しさを覚えることがある。
今日だって。
白夜はまだ呼吸を整えるのに精一杯だというのに、あっという間に真剣味を帯びた黒天狗の声に意表を突かれてしまった。
「どこ、に?」
白夜は必死に冷静さを取り戻しながら問いかける。
「明日は陰の気が満ちるのでな。百鬼夜行に出向かわねばならん」
ある季節、ある時刻に、都には濃い瘴気が満ちる。
陰陽師たちが外出禁止を定めるほどの禍々しい夜が訪れるのだ。
そういった夜には鬼が現れる。瘴気の声に誘われて負の感情に囚われたものに取り憑き、悪事を働くのだ。もしくは血肉を求めて牙を剥くものもいるだろう。
人々は恐れ戦き、息を潜める。
しかし鬼にとっては活気をもたらす、かっこうの餌場だ。
恨みや嘆き、そういった瘴気渦巻く夜にはあらたに生まれる鬼もいる。
転生直後の白夜のように、都を彷徨う鬼たちは仲間を求めて集い、それらを迎え、招き入れるのが黒天狗の役目なのだとか。
この山に棲むものたちの多くが都から生まれた鬼なのだと、先日ハクから教わったばかりだった。
「お館様がいなかったら、都は鬼だらけになっちゃうんだよう」
聞いた時は目から鱗だった。人々が恐れるあやかしが、鬼による被害を抑えているなんて誰が思うのだろう。
百鬼夜行は現存する鬼にとっても人間にとっても大事なものだ。
それなのに、どことなく気乗りしない様子に白夜は首を傾げた。
「もしかして……行きたくないの?」
「おまえを一人にしたくない」
不貞腐れたようにいわれて呆気に取られる。
仲直りをしてからというもの、ろくに離れたことがない。それなのに少し離れるだけでも不安だなんて。
途端に黒天狗が可愛らしく思えてしまい、くすりと笑みをこぼした。
「一晩だけでしょ」
「一晩も、だ。俺のいないところで何があるか知れたものではないからな」
「心配性だなあ。でも大事なお役目なんでしょう? それなら俺も一緒に行くよ」
一応、跳躍はきちんとできるようになったし、百鬼夜行ってあわわの辻を歩くだけでしょ?
軽い気持ちで申し出ると黒天狗は険しい表情を浮かべ、ピシリと言い放った。
「ならん」
答えには微塵も迷いが見て取れない。かたく重々しい声に白夜は驚いた。
「なんで……」
「都には陰陽師がいる」
――陰陽師。
実際に会ったことはないが、白夜も噂くらいは耳にしたことがある。
官僚としては星を読んで吉凶を占い、御所や都の祭事を執り行う。しかし、その一方で不思議な術を使い、鬼やあやかしを打ち祓う特殊な動きもみせる。鬼による被害がでると、陰陽師たちが原因究明に奔走するのだとか。
「俺たちは奴らにとって宿敵だからな。いつでも狙われる覚悟を持たねばらん」
珍しく緊張した面持ちだ。
戦ったことはないけれど黒羽山の主ともなれば、あやかしの中でも強さは桁違いのはずだ。その黒天狗がこんな顔をするなんて、少し怖くなった。
「お館様は……行って大丈夫なの?」
不安げに問うと黒天狗は鼻で笑ってみせた。
「俺ひとりなら問題ない。たとえば何十何百という鬼が死んでもな。だが白夜。おまえだけはダメだ。おまえが危険に晒されると思うと不安で仕方がない」
黒天狗はぎゅっと白夜の体を抱きしめた。
「だからここで待っていろ。頼む」
大事にしてくれている。
それがわかって胸が熱くなる。
白夜は黒天狗の背中に腕をまわし、こくりと頷いた。
「わかった。ここにいる。だから無事に帰ってきてね」
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