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私は吸血鬼として、長い間、生きてきた。退屈してくるのも仕方のないことで、世界中を旅して暮らしていた。そして、日本にも何度も訪れ、日本語も上達した頃に愛美に出会ったのだった。
その晩、私は空腹で血を飲む相手を探していた。正直なことを言うと、美女には飽きていた。ちょっと、いつもと違う子がいいと思っていたが、それでも、バーのカウンターで隣になったとはいえ、うつ伏せで泣いている女に声をかけるつもりはなかった。ただ、鬱陶しかったので、黙らせるつもりだった。
吸血鬼は血を吸うために人を魅了し、操ることができる。簡単なことのはずだった。
「大丈夫ですか」
声をかけると、女が顔を上げた。大きな目が不思議そうに私を見た。
「大丈夫じゃない」
鼻をすすった。
「じゃあ、気晴らししませんか」
私は微笑んだ。魅了の力をふんだんに発揮しながら。
「変な人」
そう言った愛美が変な人だった。
普通は私の流し目一つで人間は簡単に首筋をさらけ出すものなのだ。それが通用しなかった。
無理矢理、血を飲むというのは簡単にできるが、それは私のプライドが許さない。
吸血鬼の私に魅了されない女性は珍しい。だから、好奇心で友人となった。もしかして、血の味も違うかもしれないと思って、飲ませてくれるように頼んだが、断られ続けている。
「たぶん、本気の恋をしてる時は魅了なんて効かないんだよ」
愛美はそう言うが、愛美の本気の恋が実った試しはない。
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