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人間というのはここまで泣き続けられるものなのか。感心してしまう。
愛美はソファで膝を抱えて泣いている。まわりに散らばったタオル、ティッシュ、ペットボトル。
「泣いたってしかたないだろう。お前の見る目がないのが悪いんだ」
声をかけると、愛美は顔を上げた。
不細工な顔だ。まぶたは腫れ上がっているし、目は充血している。寝不足のくまができていて、肌もガサガサだ。
「だって、だって、すごく優しかったんだよ。私のこと、好きって言ってくれて」
「言うだけなら、誰でも言えるさ」
「でも、もう少しお互いを知ってからって言っただけだよ。それなのに」
付き合いだしてすぐにホテルに誘われて、断ったら、振られた。よくある話だ。おまけに相手はその場で別の女性に電話をかけたらしい。
「最初から体目当てだったんだろう。まったく、ここにいい男がいるのに、私じゃ、何が不満なのか」
私の顔は整っている。彫りが深いせいか、ギリシャ彫刻のようだと言われることもある。少し、色が白いところは好みが分かれるかもしれないが。
「だって、ディーだって体目当てじゃん」
「失礼な。私の目当ては血液だけだ。愛美の体なんて」
「どうでもいいんでしょ。私の気持ちもどうでもいいんでしょ」
「そんなことない」
ややこしい女だ。惚れっぽいくせに男を見る目がない。
出会った最初からそうだった。
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