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それを見たとたん、平井は声を出して笑い出した。
「お前、何がおかしいんだ?」
平井は馬刺しを一枚頬張り、生ビールで喉に流し込んだ。
「いいか、よく聞け。お前はI could eat a horse.の意味を『馬を食べることができた』つまり、『馬刺しが好きだ』と間違って解釈しているんだ」
「何だって!」
「このcouldは仮定法過去で、『その気になれば何々できるのに』の意味なんだ。つまり、I could eat a horse.を直訳すると、『その気になれば、わたしは馬一頭食べられるくらいだ』となる。そこから『おなががとても空いている』という成句になったんだ。お前、これ高校生レベルだぞ」
たちまち徹の顔が青ざめた。
あのときのかおりの顔つきが蘇った。
英語力が高校生レベルもないことが、かおりにばれてしまったんだ。調子に乗ってTOEIC八百点と豪語した自分に、かおりは愛想をつかしたという訳か……。
すべてがわかったが、やっぱり、かおりを手放したくない。
徹は決心した。明日から英会話学校に通う。そして実力でTOEIC八百点を取って、もう一度かおりにつきあってくれと申し込むんだ。
「平井、ありがとう。すっきりした。ここは俺に奢らせてくれ」
「いいのか?」
「もちろん。今日はとことん飲んで、明日からやり直すさ」
「よし。馬刺し、お代わりしていいか?」
「ああ、俺もだ。I could eat two horses.だ」
(了)
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