馬を食べる

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「最近受けていないからわからないけど、昔は八百点台だったと思うよ」 「えー!」  かおりは店中に響くほどの声を出した。 「おいおい、声が大きよ過ぎるよ」 「ごめんなさい。だって、八百点台って凄いんですもの」  徹は心の中で、少し言い過ぎたかな、と思ったが、今更本当のことは言えない。 「もうずいぶん時間が経っているから、今はもっと低いと思うけどね」  かおりの尊敬の眼差しが心地良い。 「もともと凄いんだから、少しやればすぐ戻るわよ。いいなぁ。ねえ、学生時代、英語をどうやって勉強したの?」 「と、特別な勉強はしなかったよ」 「そんな……。ねえ、わたしに勉強の仕方を教えて!」  徹は頭の中で時間稼ぎをした。 「じゃあ、一度、時間のあるときに一緒に本屋に行こうか」 「嬉しい。じゃ、ラインで友だちになってね」  話が弾んで、二人の距離は一気に縮まった。徹は、帰宅後ネットを使い、TOEICの勉強法を調べ尽くし、推薦本をメモった。 後日、本屋でかおりと待ち合わせて、そのメモを手掛かりに、自信ありげに教材を推薦した。食事をして、帰るときには、かおりの目つきは、カリスマ講師を崇拝するそれになっていた。  それから食事中心のデートが続いた。土日はかおりが英会話教室と翻訳教室に通っていたので、会えるのは平日の夜だけだった。  かおりは英語の勉強になるからと言って、ラインでも英語を使うことがよくあった。といっても基本的な構文や言い回しばかりであった。知らない単語は、スマホに入っている翻訳アプリで調べれば事足りた。  “How about going to an Italian restaurant?”と来たときは、
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