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乳がんですね、と告知されたとき、思わず出てきた言葉は、 「あらまあ」 だった。あまりにあっさり言われたので、涙が出るような雰囲気ではなかったし、ピンと来ていなかった、というのが正直なところだ。 夫に話した時も、両親に連絡した時も、手術の時だって、泣くことはなかった。 初めて泣いたのは、手術の後、病理検査の結果を聞いたときだ。 あの日も、金曜日だった。 「検査の結果、リンパ節への転移が複数認められます。  再発のリスクが高いので、抗がん剤治療をお勧めします」 乳がんの告知の時より、この時の方が衝撃は大きかった。 抗がん剤治療は全く想定していなかったし、それを私に告げた時の、主治医の申し訳ないような、困ったような表情が、私を震え上がらせた。 病院から出た時、からりと晴れあがった空の青さだけが鮮明に脳裏に焼き付いていて、主治医の説明内容はもちろん、どうやって家に帰ったかとか、そういうことは記憶からすっぽりと抜け落ちている。 夫にはLINEで、 「抗がん剤治療が必要と言われました」 と伝えるのが精一杯で、 「わかった。家に帰ったら詳しく聞くから。今日は早めに帰る」 という返信は来たけれど、結局、その日、私たちはそのことをほとんど話題にできなかった。 私は食事が喉を通らなかったし、 「せめてこれだけは飲んだ方がいいよ。身体があったまるから。」 と言って、夫がいつもより時間をかけて丁寧に入れてくれたハチミツ入りミルクティーは、味がしなかった。
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