3人が本棚に入れています
本棚に追加
1
つい、安請け合いをしてしまった。
断らなかった自分が悪いとはわかっているけれど、
時間が経てばたつほどなんだか腹が立ってきて、
夫に愚痴ってしまったのは、金曜の夕食時だった。
「これはね、強制ではないんだけど、ね、
別にほかのことを書いても構わないんだよ。
でも君は、病気のことを必要以上に隠すつもりはないっていうし、
むしろ、早期発見のために健康診断を受けるように、
友人にも話してるって、言っていたから、ね、
今回は、いい機会なんじゃないかと思うんだよ。
君のその、闘病体験を、ね、書いてもらえれば、どうかなと思って。
大変だったけど、もう大丈夫、早期発見すれば、あなたも大丈夫、
みたいなことをさ、ちょこっと書いてもらえれば、ね。
締め切りまで1週間をきってるんだけど、ね、
なんとか頼まれてくれないかな。
って、こんな感じよ?信じられない。
締め切りが来週の火曜日って、週末は家で作文しなさい、
ってことじゃない、ねぇ?」
私的には、結構完成度が高いと思っている、部長の物まねを、
夫は笑いながら聞いてくれた。
そして、お皿を下げ、淹れたてのミルクティーのマグカップを二つ、食卓に並べた。
私の方は、ハチミツ入りだ。
「その上司って、例の、ブチョーアントワネット?」
「そう、ブチョーアントワネット。だ、か、ら、断れなかったの。」
ミルクティーを一口飲む。その優しい甘さと、きっぱり断れなかった自分のふがいなさに、思わずため息が出る。
「あー、美味しい」
「じゃあさ、ブチョーアントワネットの伝説の名言を書いちゃえば?」
思わず笑ってしまった。それはいい考えかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!