第1章『共犯』

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No.1,死にたい小説家 「うーん……なぁんか違うんですよねぇ! 書き直してくれますぅ?」 聞き慣れた声と台詞。上から目線な態度、僕の作品を否定するような言動。全て慣れてしまった。 「あのねぇ、安達(あだち)さぁん! ……次は、良いの持ってきてくれます? ここは、遊び場じゃないんすよ。プロの場なんすよ! ……ね?」 ねっとりとした声で、煙草を吸いながら言われる。足踏みする速度が早くなり、イライラしているのが分かる。口にしようとした言葉を飲み込んで、僕は愛想笑いをして、その場を去った。 * ただいま、何て言葉等言う気力もなく、玄関で倒れ込む。玄関にまで侵食している原稿用紙。それに『✕』と付けられているのを見ては『あぁ、早く死にたい』そんな気持ちが脳内を駆け巡る。 2✕✕✕年、東雲(しののめ)文庫に開催された小説大賞。そこに僕の作品を応募した所、僕の作品は選ばれ、書籍化され、僕は小説家となった。今でも、夢だったではないかと思ってしまうような出来事だった。自分の感情と好きを全て詰め込んでぶつけた僕の作品。それが選ばれて、そして憧れていた小説家になれて、とても嬉しかったのを覚えている。 しかし、今はそんな嬉しいと言う感情さえもない。自分の感情と好きを詰め込み、ぶつけて編集者に見せた作品は、嘲笑われ書き直せと言われてしまう。自分が否定されているようで生き苦しかった。やっと掴んだ自分の夢。しかし、掴むには自分の好きを手離すしかない。そんな事を言われて、どうすれば良いんだと頭を抱えていた。 相手の要望に答え、相手の指示に従って執筆するが、どうもしっくりこないし、何より書いていて楽しくない。 自分を否定され、書きたくもない話を書いている。それだけでも辛いと言うのに、家族から鬱陶しい程の電話がかかってくる。早く就職しろとか、いつまでも甘ったれてるんじゃないよとか、そんな言葉だ。就職したよ。だけど勤めた会社がブラック会社で精神殺られて辞めたんだ。今は、小説家としてやっていってるよ。でも、何で書いているのか分からないんだ。そんな言い訳が、ぐるぐるぐるぐると身体中を駆け巡る。 あぁ、もう嫌だ。全て投げ出してしまいたい。そんな事を思いながら、頬をなぞり、瞳から涙がこぼれ落ちた。原稿用紙に落ち、書かれていた文字が滲む。じわじわと。まるで侵食していくように―― 「ねぇ、大丈夫?」 肩に冷たい何かが乗ったと同時に、透き通るように綺麗な声が耳元から聞こえた。驚くと同時に、流れていた涙もいつの間にか止まっては、震えながら隣を見る。 前髪で隠れている左目、そして結られている灰色の髪。まるで人形のように整っている顔。口角を上げて笑みを浮かべていた。そして、青年は再び口を開いては、こう告げてるのであった。 ねぇ、大丈夫? と。
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