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No.4,同居
あれから目を覚まし、やっと全ての状況を飲み込めた僕は、改めて幽霊――綾人と話をした。
何故、僕の家にいるのか。何故、僕は君を見えるのか。良く見る漫画やアニメでは、殆ど、この場合、知り合いや恋人などが多い。しかし、僕は全く彼と面識がないのだ。つまり、何故見えるのか、何故家にいるのか。全てが謎に包まれていると言う訳だ。
「で、何で僕の家にいるの?」
原稿用紙だらけの汚い和室で、首を傾げてたずねた。浮いている彼を見ては、へらっと笑って「分からないんだよね」と一言告げた。
その一言に呆れて、ため息を付く。何が分からない、だ。頭を抱えては、スマホで『霊媒師』と検索する。
「ちょっと待ったぁぁ!!」
大きな声で僕の行動を止める。静かな和室で、彼の声だけが響き渡る。冷たい手が、僕の手に触れて、ビクッと体が跳ねる。
「何?」
「お願い、霊媒師は呼ばないで!! 大事にしたくないんだ、って……えぇ!?」
「はぁ……霊媒師は呼ぶなって言っても……てか、叫ぶな、煩い、近所迷惑」
大袈裟に驚いては、僕の手と僕の顔を交互に見つめる。何がしたいんだ、コイツは。冷めた目で見ていると、興奮した様子でこう言った。
「俺、幽霊なのに君に触れる!! 他の人も、他の物も!! 全部触れなかったのに、君だけは触れる!! 何で!?」
嬉しそうな笑みを浮かべては、ふよふよと和室の中を走り回る。確かに、言われて見れば僕とコイツは触れ合った。体温、手の感触も感じた。幽霊とは触れ合えないはずなのに。
ますます謎が深まった。だが、そんな事はどうでも良い。触れ合えるのなら、良かったじゃないか。
和室の中を走り回っている、彼の手を引いては、ベランダの扉を開けて、彼を外に放り投げた。
「ちょ、ちょっと!?」
扉越しに混乱する声が聞こえるが、そんなの無視だ。カーテンを閉めて、ため息を付いた。
あんな奴と一緒なんてごめんだね。面倒事になりそうだ。というか、一体何だったのだろうか?
面識がないのに僕は彼が見えて触ることも出来る。謎は深まるばかり。
「もう!! 酷いじゃないか!!」
肩に冷たい何かが置かれたと同時に、明るい声が聞こえてきて、まさか……と思って後ろを振り向く。そのまさかだった。
「何で……さっき……」
さっき、ベランダに放り投げたじゃないが。その言葉が出なかった。
「いや、俺幽霊だから。入れちゃうんだよね〜!! ね、お兄さん!! 俺をこの家に住ませてよ!!」
あぁ……再び頭を抱えた。こういうタイプの奴は、一度断っても、此方が頷くまで、粘るタイプの鬱陶しい奴だ。
幽霊だったらご飯も食べなくても良いし、光熱費や電気代もかからないだろう。
「僕の邪魔しないなら……いいよ」
彼をじっと見つめて、歯切りが少し悪いが提案する。
「本当!? 絶対邪魔しない!!」
目が煌めき、ブンブンと大袈裟に頷く。はぁ、と再びため息をついては「いいよ」と呟いた。
こうして、謎が多い見知らぬ幽霊と、小説家の僕の、同居が始まった。
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