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別に一人でも苦ではない
強がりではなくて本当に
ただ暗闇に一人ベンチに項垂れる先程の人物が、まるで孤独な自分を見ているようで無性に話しかけてみたくなった
看護師に見つからないように静かに外へ出る
ザーッという激しい雨音の中先程の人物に近づいた
「よかった」
思わず幻ではなくてよかったと声に出してしまった桜は、急に恥ずかしくなり赤面する
桜の声に反応するようにその人物はゆっくりと顔を上げた
胡乱な目を向けたその人物は息を呑むほどに綺麗な顔立ちをしていた
肩まで流れるような漆黒の髪、透き通るような肌、そして血のように赤い目━━まるでガーネットのよう
無機質な雰囲気を醸し出した若い男性だった
「きみは?」
桜はあまりにも現実ばなれした容姿を持つ人物を目の当たりにして、思考が停止していた
「何か用?」
なんとか意識を取り戻すことに成功した桜は、ゆっくりと深呼吸をしてから話しかけた
「……雨ですよ」
緊張していたとはいえ、我ながら初対面の人に何を言っているのだろうと思う
「知ってる」
答え終えると、また項垂れたその人の頭上に桜は折りたたみ傘を差し出す
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