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「ん?」
通りすがりの公園にてベンチに座っている子供を見かけた。
小学校にも上がってないぐらいの小さな男の子だった。
(えー……夜11時超えてるのに、これっておかしいよな。
どうしよう。気付かなかったことにしようかな)
面倒なことには関わりたくない。
俺は、そのまままっすぐ歩き進め……ようとしたけど、ダメだった。
このまま自宅に帰ると一生引き摺るような後悔をする、と心の奥が告げていた。
俺はおもむろに公園に入り、男の子がいるベンチに近づいた。
「おーい、坊主」
「え?」
「ひとり? かーちゃんかとーちゃんは一緒じゃないの?」
「…………」
「あ、もしかして迷子? じゃあ、お巡りさんを呼んでやるから……」
「だ、だめ!」
「ん?」
「おうち、かえっちゃだめ」
「何で? かーちゃんとか心配してるんじゃないか?」
「ママのじゃまになるから」
「…………」
男の子はベンチの上で膝を抱えて震えている。
小さな体は酷く痩せこけていて、所々に痣や生傷が見て取れた。
よれよれのトレーナーを着ているが、それもまた薄汚れている。
何より、こんな時間に小さい子供を一人にして良いはずがない。
これらの状況から、この男の子が碌でもない環境に置かれていることは明白だった。
「大丈夫。優しい大人の人たちがいるから、その人に助けてもらおう」
「ママ、おこらない?」
「う、うん」
「おじさん、いたいことしない?」
「それは大丈夫……だと思う」
男の子の問いに曖昧に答えつつ、俺はその場で警察に連絡した。
とりあえず迷子ということにして、ついでに虐待の疑いがあることも告げた。
警察の人が来たら、この子は一旦は保護されるのだろう。
その後はどうなるんだろう。
児童相談所に引き取られるのだろうか。
なんだかんだで母親の元に連れ戻されるのだろうか。
分からないけど、赤の他人である俺に出来るのはこれが精一杯だろう。
「ん? どうした?」
「…………」
ふと、男の子が何か言いたそうにじっと俺を見つめていることに気付く。
その直後、『グゥー』とお腹が鳴る音が響いた。
「あー……腹、減ってんのか」
「…………」
男の子は小さく頷いた。
仕方ない。俺は、持っていたコンビニ袋をそのまま男の子に手渡した。
「これ、食べな。アンパンとメロンパン」
「……いいの?」
「良いよ」
「あ、ありがとう……ございます」
消え入るような声で男の子はお礼を言った。
そして、パンの袋を開けるなりものすごい勢いで食べ始めた。
よっぽどお腹が空いていたんだろう。
必死で食べながら時折涙を流している様が、いっそう哀れだった。
そうしているうちにパトカーが到着した。
現れた制服姿の警察官に事情を説明して、件の男の子を引き取ってもらった。
去り際に、何度も「ありがとう」と言ってもらえたので、俺の心はある程度満たされた。
が、腹は満たされないままだった。
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