ありがた味

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夜の12時過ぎ。 自宅に帰り着くなり、俺は玄関にへたり込んだ。 「あー……腹、減ったなあ」 疲労感と空腹感でつぶれてしまう一歩手前だった。 そんな俺の視界に大きめの段ボール箱が映り込む。 「あ……」 今日の昼、母親から送られてきてそのままにしていたものだった。 思わず乱暴にその箱を開ける。 中には、思った通り沢山のリンゴが入っていた。 いずれも、規格から外れた不恰好なリンゴだった。 一番手前にあった小さなリンゴを手に取って、そのままかぶり付いた。 そしてじっくりと味わう。 「美味い。……ありがてぇ」 優しい甘味が身体中に沁み渡り、俺は情けない顔で笑った。 (終)
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