ありがた味

1/6
前へ
/6ページ
次へ
その日、狭い部屋に鳴り響くインターホンの音で俺は目を覚ました。 寝ぼけ眼で玄関を開けると、配達のお兄さんが大きめの段ボール箱を持って立っていた。 「お届け物です」 「あ、どうも」 はて。ネット通販で何か注文していただろうか。 心当たりは無いが、とりあえず受け取りの判子を押す。 その際、送り主の欄を確認した。 (あ、かーちゃんからだ) そこには実家の住所と母親の名前が書かれていた。 (ってことは例のアレだな) 配達のお兄さんから荷物を受け取る。 ずっしりとした重みを感じて、その中身を確信した。 リンゴだ。 俺の実家は青森でリンゴ農園をやっている。 だから、11月の肌寒い季節になるといつも東京に住む俺の元に沢山のリンゴが届く。 形や大きさに難があって出荷できなかったものを集めたやつだ。 大学進学で上京して以来、ずっと続いている。今年で3年目だ。 一人ではとても食べきれないので、出来るだけ形の良いものを選んで同じアパートの人たちにお裾分けをするんだけど……正直なところ、ありがた迷惑になってないか心配なところだ。 「あ、いっけね! 三限の講義に遅れる!」 時計を確認した途端、俺は寝ぼけていた頭を完全に覚醒させた。 昼の12時過ぎ。 今日の講義は午後からだと思って油断していた。 リンゴの入った箱をそのまま玄関口に置く。 それから俺は、大急ぎで身支度を整えて部屋を出た。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加