トメキチの娘

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 裸足の足元に届いた海水は、まだまだ冷たかったが、酔った修には返ってそれが気持ち良かった。  しばらく波際に立ち、時々押し寄せる冷たい波に足を晒していると、もう少し海水に浸りたくなって、修はもっと沖へと進んで行った。  すると不意に大きな波音が側で聴こえたかと思うと、大量の冷たい波が一気に押し寄せ、すっかり股下くらいまで濡れてしまい、修はその間抜けな自分を嘲笑うかのように、奇声を上げて笑った。  今年で32歳にもなる修は、別に自然を舐めていた訳ではないと思うが、その夜の海はぐんぐんと、修を引き込んで行ったのだった。  腰まで海水に浸かってしまった修はついに、もういっそここで泳いでしまおうかという思いに至った。  携帯電話はこんなこともあろうかと思い、脱いだ靴や靴下、上着と共に砂浜に置いてきていた。  修はついに、ザブンと波に向かって頭から飛び込み、波立つ山を越えるまで、押し戻されながらも、懸命に泳いだ。
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