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トメキチの娘
夜が明けるには、まだまだ時間があるというのに、早くも薄っすらと白み始めている夜空は、真っ黒い海との境界線を際立たせ、それが眺望できる水平線であることが認識できた。
この海辺の街に住み、小さな造船所に工員として勤務する長山修は酔って、こんなに空虚で殺伐とした気持ちになった時には、何故か街の海水浴場に一人、足を運ぶ時があるのだった。
手前の波は暗くてよく見えないが、心地よい潮騒が修には聴こえている。
桜が散り始めたばかりの頃だが、この日は日中から初夏のような陽気で、夜になってもそれほど肌寒さを感じなかった。
しばらく砂浜に、酔って座っていた修は、久しぶりに海水に浸ってみたくなり、靴を脱ぎ、ズボンをたくし上げて暗闇の中、ふらふらと海に入って行ったのだ。
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