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小さなコーヒー屋に、テーブル席は二人用のが二席しかない。あとはカウンター席である。だから「おひとりさま」の僕たちは、それぞれカウンター席に座る。お互いの姿を見つけたら、隣の席に移動して。
「ビニール袋を持っていけばいいのに」
僕は葉月くんにそう言った。
「そしたら、本を買っても雨に濡れないよ」
「……あっ」
葉月くんは目を少しだけ見開いて、細めた。
「そうだ。そうだね。その通りだ。さすが栗田くんだ」
うん。そうするよ。
ところでそのビニール袋、栗田くんはいつも持ってるの?
栗田くんって、そういう人なの?
葉月くんは今度は、僕に向かって問いかけるのだった。
僕を、まっすぐに見て。
心の傾向に、ふつう病名はつかない。なぜならそれは、あくまでも傾向であり、病気ではないからだ。
にもかかわらず、まるで病人のように生きづらい人が、この世界には一定数存在する。
言っていいか分からないけれど、僕は、葉月くんはそういう人の一人だと思っている。
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