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リリカ、生き霊と対決する
「もしかして、彼女できました?」
「え?なんで。いないけど」
「最近、よく部屋に長い髪が落ちているので」
「彼女がいたとしても、リリカがいるなら部屋には呼ばないよ。まあ、たしかに、前よりフローリングシートをかける日は増えたかな。リリカの髪だと思ってた」
「これ、髪じゃなくて触手なんで、抜けないんです」
触手なんだ。
急にリリカの人外度数が上がった気がした。
「もう一人、女がいますね、こりゃ」
二人でトイレやらお風呂やらクローゼットを点検した。
もちろん誰もいない。
リリカは触手を天井に伸ばして探った。
「上の階の人…!」
「何かわかった?」
「隠れて猫飼ってますね!」
「そうなんだ……」
とりあえず、生身の女の人はいなかった。
♢♢♢
翌日、大学から帰るとあからさまに髪が落ちていた。
さらに翌日、昨日より落ちている髪の量が多い。
「なんでだろう。どこから湧いてるのかな」
掃除機をかけながら言った。
掃除機のゴミが溜まるところが透明なのだが、長い髪が何重にもぐるぐる巻きで入っていて、怨霊感がある。
「いつから髪が落ち始めました?」
「先週の月曜日かな。ゴミの日で、掃除機のゴミをとったから覚えているよ」
「その辺りに何かありましたかね?」
「うーん、前日に、一緒に"手作りマルシェ"に行ったよね?」
「ああ! あの手作り雑貨を売る人がたくさん来て、お店を出してたやつですよね。そういえば、そこでシュシュを買いました!」
「そのシュシュ、どこにある?」
♢♢♢
リリカの部屋には初めて入る。
乱雑に置かれた服、化粧品、雑誌、雑貨、なぜかチラシの山など。
棚や引き出しがないので、全部床置きだ。
これでは掃除をしてないだろう。
「よければ掃除するけど……」
「お願いします!」
全ての荷物を一度外に出して掃除機をかける。
埃がすごい。
ベッドもあるけど、シーツは洗ってるんだろうか……。
洗って……ないよな。
リリカは色々な品を見返して、シュシュを探す。
「うーん、ないですねぇ。どんなのを買ったかは覚えてるんですが」
ベッドの下に掃除機を入れると、何かが引っかかった。
「もしかして、これ?」
「あー! それです!」
白い布にレースのリボンがついている。
「あーあーあー。なんか禍々しい感じが出てますね!」
リリカはハサミでシュシュの布を切った。
中からゴムと一緒にたくさんの髪が入っている。
「俺はリリカの髪芸に慣れてるからいいけど、普通の人なら気持ち悪いと思うだろうね」
「髪芸って思ってたんですか?!」
リリカは自分の髪を手に取り、まじまじと見ている。
「これが原因なのかな?」
「だと思います。でもせっかくだから、もう少し様子をみませんか?」
普通ならすぐ処分するところだけど、こちらにはリリカがいる。
興味本位で放置してみることにした。
♢♢♢
その日の夜、お風呂に入っていると、扉の曇りガラスの向こうに女が立っているシルエットが見えた。
リリカではない。
もっとじっとりした感じだ。
幽霊だろうか。
そして就寝すると、夢の中で髪の長い女が出てきた。
ハッと目を覚ますと、ベッドの横に夢の中の女が立っている。
普通なら悲鳴をあげそうだが、こちらには人外のリリカがいる。
リリカvs幽霊が見たい。
幽霊から目をそらさないように部屋を出て、リリカの部屋をノックする。
返事がない。
ドアを開けるとリリカは寝ている。
ベッドのそばに行ってリリカを起こす。
「ダ、ダメです! 純潔は渡せません!」
と、叫んで、右手で俺を払いのけようとする。
鋭い爪が喉元をかすり、かすかに血が出た。
危ない!
幽霊に取り憑かれる前に死ぬところだった!
「幽霊が出たんだ! ちょっと見にきて!」
二人で俺の部屋に行くと幽霊はいなくなっていた。
「やっぱりずっとはいないよね……。なんとかリリカと幽霊を引き合わせたいけど、どうしたらいいかな?」
「幽霊っていうか、生き霊な感じがしますね。売ってた人本人ですよ」
「そうなんだ。何しに来たのかな」
「誰でもいいから不幸にしてやる! みたいな意思を感じますね。もうちょっと憑かれてみますか?」
「そうだね、もう少し粘ってみよう」
こうして、生き霊との根比べが始まった。
♢♢♢
ここ1週間で、
鏡を見ると、端に彼女が映るようになった。
駅のホームで、彼女の人影を見るようになった。
非通知の着信に出ると、向こうに彼女の気配を感じるようになった。
バイト先で、3名のお客さんの4人目として見るようになった。
ちなみにリリカはここ1週間で、
車に置き去りの子どもを助けるために車を大破させ、
煽り運転の車をぶっ飛ばし、
放火魔を見つけて火あぶりにしていた。
生き霊、インパクトうっす!
「なんで私は生き霊が見えないんですかね?」
「リリカは正義と未来しか見てないからだよ」
生き霊のエンタメ力の無さに俺は飽きてきていた。
「そろそろいいかなと思うんだけど、どうしたらいいかな」
「お任せください! 二日でなんとかします!」
なんとかされる生き霊の本体には申し訳ないが、赤の他人を呪っているのだから仕方ないことだろう。
♢♢♢
翌日、ニュースを見ていると、俺にとって馴染んだあの顔が映っていた。
あの女の人の死亡ニュースだ。
海から落ちた車が事故か事件か調査されていたようだが、心臓発作による事故と断定されたらしい。
「あれかな? 髪を飲ませて体を奪って事故を起こす的な?」
「それが、先を越されました。誰かの呪い返しみたいです」
なんて奥が深い世界だ。
「それにしても”髪芸”に詳しくなってきましたね」
髪芸発言を根に持っているみたいだ。
じとっとした目でこちらを見てくる。
「良かったら、部屋の棚とか買いに行く?」
「あー! ホームセンター行ってみたいです!」
着いた先のホムセンで、万引き犯を見つけ、手首を折ってしまうリリカだった。
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