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リリカ、ブラックサンタと出会う
俺はブラックサンタだ。
12月になると、サンタの格好をして子どもを物色する。
昔はよくホイホイと付いてきたもんだが、最近はガキも防犯意識が高くて困る。
なかなかお菓子やおもちゃでは食いついてこない。
だから、こっちも自然と話術や手品が上手くなった。
そうやって見せ物をしていると、毎回見にくる子や何をするわけでなくずっと居座る子がいる。
そういう子を狙って誘い出す。
今までは暮らしが貧しい子と決まっていたが、最近は裕福そうな子も引っかかる。
どうなってるんだ、この国は。
♢♢♢
今年も店が建ち並ぶ大きな広場の真ん中、でかいクリスマスツリーの下で、ジャグリングをしながら子どもたちを待っていた。
家族連れやカップルも見にくる。
その中に気になるカップルがいた。
男は普通だが、女が変だ。
俺の好物の子羊たちと同じ目をしていながら、その奥には俺と同じ狂気をたたえている。
狩る側と狩られる側の目を同時に持つってどういうことだ?
君子危うきに近寄らず。
俺は、その日は狩りはしなかった。
♢♢♢
翌日、同じようにやっていると、あの女が来た。
今日は一人だ。
「芸達者ですねぇ。プレゼント配りながらこんなこともしてるなんて、サンタさんはサービス精神旺盛なんですね」
「ああ、そうだよ。人の喜びは物だけではないからね。面白いものを見る、誰かと楽しく過ごす。それもプレゼントになるんだよ」
「なるほど。奥が深いです!」
「貴女は今年のクリスマスはどう過ごすのですか?」
「バイトしてます! クリスマスは大忙しなので」
「じゃあ、私と同じ、サービスする側ですね。人を楽しませた者は、より楽しい人生を送れます」
「はい! そう思います!」
他の客が来ると、彼女は去って行った。
♢♢♢
俺は、ある姉弟を狙っていた。
服はくたくたで、肌のツヤはない。
親からの愛情を感じない体つきだ。
お菓子を喜んでいるところを見ると、飯もろくに食ってないだろう。
二人だけには、温かい食べ物を用意した。
あの女は決まって、姉弟が帰るあたりに現れる。
俺が連れ出さないように見張っているのだろうか。
♢♢♢
いよいよクリスマス当日。
今日が最後だ。
まだ姉弟はさらえていない。
今日はあの女はバイトのはずだ。
姉弟が来たら、もう店じまいをしてさっさと連れ去ろう。
そう思っていたときだった。
歩行者しか入れないはずの広場に、軽ワゴン車が突っ込んできた。
すでに何人かはねている。
事故か、もしくは殺人鬼か。
男が運転席から降りて来た。
手には包丁が握られている。
無差別か。
迷惑な奴だ。
俺は荷物をサッと片付けて、帰ろうとした。
すると、あの姉弟が男の近くにいた。
男が姉弟に切りかかろうとしている。
栄養失調の鈍臭いガキが、逃げたり抵抗できるわけがない。
俺は、手品で使うナイフを男に向かって投げた。
ナイフは男の腕に刺さった。
男が呻いたとき、あの女が男のところに走って来て、男の股間にキックを入れていた。
痛いどころではない。
あれは確実に潰しにいっている。
男は悶えながら地面に転がった。
わらわらと警備員などが出て来て、男は捕まった。
姉弟は泣きながらあの女に抱きついていた。
女はサンタの格好をしていたから、本当にバイト中だったのだろう。
女は、二人を警備員に預けると、こっちに向かって来た。
「すごいナイフの腕前ですね! サンタさんは、忍者ですか?」
「いや、たまたま子どもたちのための、手品の技が生きただけだよ」
女はナイフを俺に返してきた。
「お返しします。残ってたら、マズイんじゃないかと思って」
「……新品だから、大丈夫だよ」
「なんで助けたんですか?」
「来年も、また会いたいからね。ああいう子たちが、まさかたった一年で環境が変わって恵まれてるなんて、ないさ。この国はね、落ちたら簡単には戻れないようになってるんだよ」
「そうなんですね。サンタさんは外国から来たのかと思ってました。日本に詳しいんですね」
「お世話になっている国のことくらい、ちゃんと知っとかないとね」
警察が来たので、俺はその場を離れた。
女は追いかけてくる様子はない。
今年は収穫ゼロだか仕方ない。
続けていくためには、焦りは禁物だ。
俺の誘いにのる子どもがいる限り、俺はやめない。
来年も、再来年も、ずっとずっとずっとずっと、子羊が絶える日なんか、来ないんだ。
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