VI

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「そうですか。では力也さんがあなたを無理やり海外に連れて行ってしまわなかったことに感謝しないといけませんね」  ダイニングテーブルで目の前に座っている女性は、ちゃめっ気のある言い方をしてサラダを取り分けた。ふわふわの長い髪の毛が揺れて朝日に照らされる。  出身地も、学校も、趣味も、仕事も違う彼女。きっと人生のどのタイミングを間違えても彼女と出会えはしなかっただろう。僕は料理が出来ることで、たまたま隣の部屋に住んでいた彼女とこうして出逢うことが出来た。 「おなかが空きました。もういただいても良いですか?」 「うん。いただきます」  手を合わせて、今日作った料理をいただく。今日のごはんも間違いなくおいしい。 (あのとき力也さんが言ってた幸せの味ーーもしかしたらこの味なのかもしれないな)  誰かを想って、誰かのためにつくった料理はお腹だけでなく心も満たしてくれる。そんな気がした。 ーーおわり
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