El Prata Hambriento 〜腹ペコの海賊〜

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 そんな彼ら禁書の秘鍵団の面々が、新天地へ護送される魔導書『大奥義書』強奪のため、アジトのある海賊の島トリニティーガーから、はるばる海を越えてエルドラニア本国最大の港町ガウディールへ向う道中でのこと。 「──露華ぁ〜腹減ったぜ。飯はまだかあ?」 「わかってるネ! 今作ってるとこだからおとなしく待ってるネ!」  目つきの悪い黄色の瞳で厨房内を覗き込む、青バンダナを頭に巻いた仲間の海賊(じつは人狼)リュカ・ド・サンマルジュの催促に、燃え盛る炎の上で手持ち鍋を振るいながら、ひどくウザったそうに露華は答える。  この桃色のカンフー服を着たツインお団子ヘアの東方系ロリ少女・陳露華(チェンルゥファ)は、見かけによらず双極拳という武術の遣い手であり、当初は純粋な戦力として船長(カピタン)マルク・デ・スファラニアにスカウトされたのであったが、いざ海賊稼業を始めてみると彼女には新たな役割が与えられた……。  それが、料理番である。  本来はもともと海賊で船旅にも慣れていたマルクが料理を担当するか、あるいは当番制にするかという話であったのだが、そこには重大な盲点があった。  まず、金髪碧眼の三つ編みおさげという可愛らしい外見をしていながら、船長マルクは海賊であるとともに魔術師でもあり、医術の心得もあったために薬草やハーブをふんだんに使った身体に良い料理を作るのだが、完全に味は度外視しているが故に苦くて食べれたものではないのだ。  また、他の団員達も騎士と従者、錬金術師にはては人狼…と、いずれも料理に関してはずぶの素人で、こいつらに任せていては美味しい食事を期待できそうになかったのである。  その点、露華だけは違っていた。幼い頃より今は亡き親族達から故郷の(シン)国料理を叩き込まれ、フランクル王国で拳闘士をしていた時も一人暮らしで自炊をしていたため、意外や料理は得意中の得意だったのである。 「ハイヨ! 本日のメインディッシュ、ポテトとソーセージの唐辛子炒め、一丁あがりネ!」  そんなわけで陳露華は、今日も彼女達の海賊船〝レヴィアタン・デル・パライソ号〟の厨房で料理の腕を奮っている。  しかし、アジトのあるトリニティーガーならば外食に出ることもできるのだが、すべて露華頼みのこの長い船旅にあっては、段々に団員達の注文もワガママになってゆく……。
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