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暗闇の中、空腹にさいなまれる。喉の渇きも限界に感じる。ーー何日経過したのだろうか。
父上には、三十日後に迎えに来ると聞かされていた。ここ数年で、嫡流の子供等が何人もこの小屋で冷たくなっていった。とうとう、庶流の中でも〝能力〟が高めの父の子である自分にその役が回ってきた。一族を支える祭祀の断絶を避けるために〝能力〟を開花した子供が必要であった。同時にその子供は、家々を率いてこの地域一帯を統べる当主となる。
母上は反対をした。父上と同程度の〝能力〟を持つ者は他にも存在するのであるから、この子でなくてもよいはずだと。
小屋での精進は、地位に見合うだけの強大な〝能力〟を得るために童子に課せられるものではあったが、長い時を経て、子供達の心身にとっては危険なものとなっていた。だが、自分が〝能力〟を得て、ここから出さえすればいいと思った。それで両親の望みも、自分の望みも満たされるのがわかっていた私は、ただ独り、この閉ざされた小屋へと籠もった。
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いつの間にか眠ってしまっていたようだ。果てしない時間が経ったような、それでいて、一瞬であったような気もする。眩しさでよく目を開くことができない。三十日はもう過ぎたのであろうか。
「ああ、よかった」
頭の上で、お母さんが泣いている。そうだ、遊園地で恐怖の館だとか何かに入ったのだった。お父さんがそういうのが好きで、ちょっと嫌だったけれども嫌とは言えずに、お母さんに手を引かれて三人で入ったのだった。でも……暗い中を進むうちに何だかくらくらしてしてきて、その後の記憶が飛んでいる。
「ごめんな。お前は暗い所が苦手だったのに、無理させてしまったかな」
寝ている自分の横でお父さんが話しかけた。白衣の人物がもう大丈夫だというのを聞くと、急に空腹を覚えた。
「お腹すいた」
広場に止まっていたキッチンカーでジュースとサンドイッチを買い、あたたかな日差しの中、三人でそれを食べた。
そう、責任だとか知らないし、特別な力だとかそんなものはいらない。自分はただ、普通にお父さんとお母さんの子供でいたかった。あれ、あらたまって、自分ヘンなことを考えるんだなと不思議に思いながら、大好きな緑色のソーダをストローで吸って喉を潤した。
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