第1話 ひつじはカラスに出会いました。

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 男性が遠くにいる女性に壮ちゃんと呼ばれている声が聞こえた。そうか壮というのか彼は。苗字かな?名前かな?もう会うことはないかもしれない。  しっかりお礼を言えばよかったと鳴は少し反省して、そんな思いから数日ーーーー。 *** 「ーーえ?」 「よ、偶然。お嬢さん」  退勤した鳴が出版社の外に出れば、先日助けてくれた男性がいた。まさかこんなすぐに会うとは思いもよらず、鳴は驚く。そこに男性は「こないだはどうも」と言いながらさっと名刺を出した。そこに書いてあるのは出版業界とは程遠い日本で指折りの財力を保つ会社。  国内海外問わず物流や最先端のアイテムを取り揃える情報発信力No.1の今最もトレンドな会社。関西株式会社AzamIの1人にして財務部代表という肩書き。  そう、エリートなのである。そんな肩書きと鳥丸壮という名前の部分に鳴は目をやった。とりまる? 「とりまるさんはエリートの方だったんですね」  鳴の答えに一瞬きょとんとして、彼は笑う。 「俺ね、“からすま”って読むの。まあとりまるでもいいけど。お嬢さんは、特別に」
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