親の愛か空腹知らずか

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 ソファに深く腰掛け、背もたれに体を預けた。  ひと通りの調度品がそろっているのが、空々しい。最後に使われたのはいつだったか。時々は、どちらかの親がやって来て使っているのか。  そんな気配さえ感じ取れない。  家という無機質の気配が、人の気配を上回っている。  父親の顔も、母親の顔も、よく思い出せない。電話で声は聞くが、それも月に1度か2度程度。どっちの親も仕事が忙しく、別の住まいをもって、そっちで暮らしているのだ。夫婦仲がよくないのは気づいていたが、家に子どもを残して、二人とも出ていくなんて、誰が思いつくだろう。 (・・・お腹空いたな)  俺は立ち上がって、再びキッチンへ向かった。棚の一つを開けると、バターロールの入った籠を出した。冷蔵庫からバターとジャムとハムを出す。それらをバターロールに塗ったり挟んだりし、立ったまま齧った。  流しに寄りかかり、バターロールをほおばりながら思った。 (お腹が空いたら、食べるものが常にある。それは幸せなことだ)
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