親の愛か空腹知らずか

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 玄関を開けて、家の中に入った。  静かなのは相変わらずで、人気がないのもいつも通り。  家の中の空気がひんやりしているのは、この家の住人の関係が冷え切っているからかもしれない。  住宅街の一角にある一軒家。隣近所はファミリーばかりが住む。中級クラスのやや上の層が多く、それぞれの家庭は仲良さそうで明るい雰囲気があるのだが、住人同士の交流は少ない。  ドライな関係と言えば聞こえはいいが、どちらかというと、面倒ごとに関わりたくない、という意識の方が強いのだと思う。  ほこりひとつないリビングに入り、肩にかけていたカバンをソファの端に置いた。  今日は家政婦が来たのだろう。母親が定期契約をしており、1週間に一度、俺が学校へ行っている間にやってくる。顔を合わせたことはない。それも契約のうちだからだ。  俺はキッチンに行くと、冷蔵庫を開けた。目の高さの棚に、今日の夕飯用の一皿が置いてあったが、それには手を出さず、サイドに入れてあるジュースのパックを取り出した。食器棚のコップに注ぎ、一気に飲み干す。  キッチンカウンターにパックとコップを、そっと置いた。静けさを破らないよう、そっと。  息を吐いた。  10歳の子どもをひとりで住まわせるには広すぎる家だ。
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